VIEW21 2002.2  指導変革の軌跡 埼玉県立越谷北高校

 '01年11月1日、埼玉県立越谷北高校では、全教師を対象に、市内の富士中学校の教務主任を講師に招いての「教職員研修会」が実施された。教育改革を見据え、同校ではここ数年、5月と11月に進路指導部が企画する形で研修会が行われていたが、中学校と高校の連携を考える企画は今回が初めてだった。
 「今回の研修会に先立って、先生方に研修内容について希望を募ったのですが、当初は『大学入試の情報を知りたい』、『入試における小論文のテーマの分析をしてはどうか』、といった、大学側に目を向けた意見が多く、入口側、つまり中学校側への関心はやや少数派でした。しかし、私は何としても中学校の実態を、すべての先生方に認識してもらわなければと考えたのです」と、この研修会の実施に中心的な役割を果たした、進路指導主事の清水龍郎先生は振り返る。
 清水先生が中学校の現状について、高校の教師も知る必要があると考えていた背景には、次のような事情がある。
 越谷北高校は首都圏に近く、自宅から通える範囲に大学も数多くあり、埼玉大、千葉大といった国立大を中心に、長年に渡って堅実に進学実績を積み重ねてきた。ところが、ここ数年、大学合格者数そのものについては大きな変動はないものの、難関国公立大への合格者数が減少したり、浪人しても第一志望校に合格できない生徒が徐々に増え始めるなど、内実には大きな変動が起き始めていた。
 「以前の生徒と比較して、基礎学力が付いていない生徒が入学してくるようになったのが原因の一つでしょうね。確かに彼らは高校入試を突破してくるわけですが、塾で受験テクニックを教えられて通過してくることも多く、必ずしも高校での学習を受け止められるだけの基礎学力が伴わないケースもあるのです。一方、学習習慣が身に付いていない生徒の増加も目立ってきました。例えば、英語の予習にしても、辞書の引き方すら知らない生徒がいます。そして、教師が『予習で単語の意味を調べなさい』と言うと、『中学校の教科書の巻末には、文中の単語の意味が載っていた』と答えたりするわけです」(清水先生)
 同校の進路指導部では、10年以上前から『学習実態調査』を独自に実施していたが、ここ数年の結果を見ると、1年生、2年生とも学校の授業以外での学習時間が「1時間以内」、次いで「30分以内」に回答が集中している。埼玉県内の高校2年生の58%以上が、授業以外の時間でほとんど勉強していないという県教委の意識調査がある中で、越谷北高校の生徒は善戦しているとも言えなくないが、これでは同校の生徒が志望するような大学への進学はおぼつかない。
 「いつの間にこんなことになってしまったのか。私たち高校教師は、中学生の現状を正確に把握し、本校に入学してくる生徒の実情に合った指導体制を早急に整えなければ大変なことになると思いました。それにはまず、中学校の先生から、直接、中学校や中学生の現状を教えていただくのが第一歩ではないかと考えたのです」(清水先生)
 早速、清水先生は講師を引き受けてくれる中学校の教師を探し始めた。そして、最終的には生徒の保護者の人脈を活用し、市内の富士中学から教務主任を招くことができた。

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越谷北高校では、研修会の場に限らず、教師間で積極的に話し合いの場が持たれている。生徒の気質や生活習慣の変化も、こうした取り組みがあってこそつかむことができる。



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