VIEW21 2002.2  創造する 総合的な学習の時間

目的意識の明確化を「体感」によって図る

 徳島県立阿波高校では、従来実施してきた出張講義などの取り組みに加えて、'00年度から1年次で就業体験を、'01年度から2年次で大学・短大・専門学校への体験入学を取り入れ、3年間の進路学習プランの再構築を行っている。
 取り組みの背景には、近年、志望動機が曖昧なまま進路選択をする生徒が増えてきたという状況がある。'00年度1学年主任を務め、'01年度は2学年主任を務める小倉智子先生は次のように語る。
 「近年、自分の将来が描けないためか、なかなか目標が持てない生徒が増えてきたと感じていました。しかしその反面、生徒達は将来の職業や仕事の内容を理解して進路決定をしたがっているのも事実です。生徒たちの持てる能力を十分に伸ばして卒業させるには、何らかの取り組みが必要なのではないかと考えていました」
 そこで'99年、同校では生徒の進路意識・職業意識を高めるため、現代の高校生に不足しがちな「体感」「体験」を通して進路観を育成する取り組みが検討され始めた。そして吉田哲夫校長の発案で、生徒が実際の職場を訪問し仕事を体験する、就業体験学習の実施が決定された。そこには「生徒が自分の在り方、生き方を考えてくれるような取り組みにしたい」という吉田校長の強い思いがあったという。
 同年9月、計画を推進するため「就業体験推進委員会」が発足した。メンバーは校長、教頭、進学課長、就職課長、教務課長、生徒課長、渉外課長、同和教育主事、そして各学年主任。しかし、普通科高校の就業体験は県内初の試みだったこともあり、当初は教師の間に「そんなに多くの受け入れ先が見つかるのだろうか」「生徒の学習スケジュールに影響が出るのではないか」など、疑問や不安の声も少なくなかったという。そこで、取り組みの具体的な内容や準備の進め方などについても、できるだけ詳細に文書化し、実際に指導する教師の実務面での苦労が軽減されるよう配慮がなされた。
 推進委員会は職員会議の度に、教師全員に説明と協力依頼をし、徐々に校内コンセンサスを得ていった。また、校外に生徒を送り出すだけに、保護者の理解も不可欠であり、PTAの会合や同窓会などでも取り組みの意義を繰り返し説明し、協力を依頼した。

生徒の納得感の高い受け入れ先を確保する

 では、実際にはどのような活動が行われたのだろうか。
 1年生の就業体験学習は、生徒が希望している、あるいは憧れている職業の仕事現場(事業所・研究所・公的機関)を訪問し、実際に仕事の一端を体験するものである。「単なる見学では意味がない」というコンセプトの下、実際に生徒が仕事に従事できることを主眼に置いて、受け入れ先の確保に当たった。それだけに、生徒にはその職業に対する高い関心を持って就業体験に臨むことが求められる。
 そこで同校では、入学後の5月に書く『10年後にどんな職業に携わって人生を送っているか』という作文に始まり、進路適性検査、職業研究、職業人による講演会、就業体験事前研究など、1年間をかけて生徒が進路を考えられる流れをつくった。これにより、入学直後は将来のビジョンが不明確だった生徒も、数か月後には、ほとんど自分の希望職種を決めることができた。
 また、依頼作業に当たっては推進委員の教師が手分けして、生徒が希望する職場を1件1件訪ねた。これにより、学校全体の取り組みなのだという意識を教師間で共有することもできた。
 しかし、企業側の反応は必ずしも良好ではなかった。「なぜ普通科高校なのに就業体験なのか」「高校を出て就職する生徒なら分かるけど、大学に進学する生徒に職場を見せても…」と、この取り組みを、けげんに思う企業は多かった。推進委員は、高校生が将来納得できる進路を見つけることを意図した取り組みであることを粘り強く説明した。
 「この子たちは阿波高だけの生徒ではありません。次の社会を担う子供たちを育成するために協力してください」
 最終的には県内の企業、官公庁、研究所、大学など実に106か所が受け入れに応じてくれた。自分の興味・関心のある所で体験できるかどうかが、就業体験学習の成否のカギを握るため、一人しか希望のなかった業種も全力で訪問先を探し出した。受け入れ先の種類と数の多さは、阿波高校の取り組みの特徴の一つだが、それはあくまで、生徒に納得感を持って取り組んでほしいという思いの結果なのだ。


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