VIEW21 2002.2  創造する 総合的な学習の時間

 同校の就業体験学習のもう一つの特徴は、就業体験を単発のイベントに終わらせず、事前・事後学習も充実させ、年間を通して進路意識・職業意識が醸成されるように、進路学習が体系化されている点にある。
 12月の実際の就業体験に至るまでの8か月間、自分の視野を広げ、興味・関心の対象を明らかにし、さらに掘り下げる研究を続ける。また、現代社会の授業に職業研究を盛り込むなど、教科との連動も考えられている。さらに、就業体験後は、職場グループごとに報告書をまとめた上で、各クラスで発表会を実施する。報告書や発表会を通して、学んだことを深めることができ、さらに他の業種の体験をお互いが共有することもできた。この点が、個々の取り組みを、連続した指導ストーリーの中に位置付けることに成功した要因と言える。

生徒、教師、受け入れ先から高い評価が寄せられる

 取り組みの成果を検証して次年度へつなげるため、同校では一連の活動を実施した後、生徒、教師、受け入れ側の企業、さらに保護者に対してアンケートを行った。
 生徒からの回答は、就業体験について「進路を考えていく上で参考になった」と評価する声が96.6%に上った。また、学んだこととしては、「自分の仕事に誇りを持ち、楽しそうに働いている姿を見て、働くことの魅力を感じた」「社会でのコミュニケーションの重要性が分かった」など、座学だけでは決して学べない内容を挙げる生徒が多く、体験学習の効果が裏付けられた。
 一方、教師の就業体験学習に対する考え方も、取り組みを1年間続けることで変わってきたと言う。取り組みが終わったとき、どの教師も『やってよかった』という実感を持ったというが、それも就業体験の効果を、実践を通して感じ取ったからだ。
 さらに、アンケートの結果で注目すべきは、当初は生徒の受け入れを渋っていた企業も、終わってみれば取り組みに概ね高い評価を寄せていることである。「真剣に説明を聞き、作業に取り組む生徒の姿に感動した」、「生徒の受け入れをきっかけに職場が活性化した」と回答した企業も相当数に上った。
 「自分の職業に興味を持っている高校生に仕事を説明することで、この道を目指したときの初心を思い返すことにつながったのではないでしょうか。就業体験で何かを得たのは必ずしも生徒たちだけではないことを発見できたのは、今回の取り組みの大きな収穫の一つだったと思います」(小倉先生)
 就業体験学習の実施に対し、「受け入れ先の迷惑になるのでは」と、考える教師は多い。しかし、取り組みの目的をしっかりと説明し、本当にその職業に興味・関心を持っている生徒を送り出すならば、就業体験学習の実施は学校のみならず地域社会の活性化にもつながり得るのだ。

就業体験の手応えから生まれた
一日体験入学の取り組み

 就業体験に続き、2年次の学部・学科研究として'01年度から始まった体験入学は、生徒が興味ある学部・学科を有する県内の大学、短大、専門学校などを訪問し、そこで学んでいる学生と一緒に授業を受けるというものだ。阿波高校では、この取り組みに先立って、'00年度は大学教員などによる出張講義を実施した。'00年度の2学年主任で'01年度の進路指導主事である太田善信先生は「大学研究の取り組みとして行った、外部講師による講演会や、大学教授の出張講義などは、生徒の早期の目標設定に役立ちましたが、より効果的な方法はないかとも考えていました」と語る。そして、ちょうどそんな折に実施されたのが、先に紹介した就業体験学習だった。


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