VIEW21 2002.4  国際人を育てる THINK GLOBAL

違いを理解し尊重する

福本 近年、「国際化」「国際人」「異文化理解」という言葉が日本でも頻繁に使われるようになってきました。高校では、2003年度から始まる「総合的な学習の時間」の主な取り組みの一つとして、国際理解教育を取り入れる学校も多いようです。では、社会で求められている「国際人」とは具体的にどのような人材のことを指すのでしょうか。まずは企業、大学、それぞれの立場から、ご意見をお聞かせください。
根岸 「国際人」と呼ばれる方々は、最初から「国際人になりたい」と考えているのではなく、何か一つのことに一生懸命取り組んだ結果、それが実を結んで国際的に活躍できるようになったというケースが多いと思います。私が勤務しているソニーでも、エンジニアリングやエンターテイメントなど、それぞれの分野で専門的な知識を持っている人は、どんどん世界に活躍の場を広げています。高校生も、国際人になるために「絶対にこれをやらなければいけない」ということはなくて、まず、自分が興味を持てることを見つけ、それを深めていくことが大事なのではないでしょうか。
飯田 私も同意見です。大学でも最近「国際化」という言葉がよく使われ、「国際」と名の付く学部も増えてきました。カリキュラム上では英語をはじめとした語学、及び政治または経済、法学を学ぶことが多いようです。しかし、国際人というのは必ずしもそういう知識がある人のことではないのです。スポーツ、芸術、科学技術など世界的に通用する知識や技術は様々です。英語が一言も話せなくても、ショパンコンクールで入賞するような方は、「国際人」であると思います。
福本 「国際人になろう」と意識する必要はなく、一つのことを一生懸命頑張り、実を結んだときには自然と「国際人」になっているということですね。では、高校では「国際人」をどのように捉えているのかお聞かせください。
吉野 本校では、社会で自立して生きていける人材を育成することを重視していますが、これが結果的に国際人を育てるということにもつながっていると思います。具体的には三つの目標があり、一つ目はアイデンティティの確立です。一人ひとりが自分とは何かを考え、社会とのかかわりの中でどう生きていくかを常に考えられるような人材を育てたいということですね。二つ目は、普遍化、抽象化、一般化する能力の育成です。これは、具体的な一つひとつの物事を大きな視野に立って再構築していけるような能力のことです。三つ目は、情報を自分の力で集め、取捨選択し、それをベースにして自分の考えをまとめ、世界に向けて発信する力の育成です。英語やITを使えるのは当たり前で、それを使って自分の考えを表現していく力を育てていきたいですね。
西村 本校で国際化を意識し始めたのは10年ほど前です。当初は「英語を流暢に話せるようになろう」「欧米人のようなマナーを目指そう」など、固定観念にはまった国際化を目指していました。しかし、留学から帰ってきた生徒の多くが、外国に行って初めて日本人としての意識を強めたり、「世界は広いと実感した」という理由で、大学は英語以外の言語系を選んだり、さらには、英語を一つの表現方法として身に付けた上で他の学部に興味を広げていくなど、英語が話せるようになる以上のことを学んで帰ってくるんですね。そんな生徒たちを見て、英語は一つのコミュニケーションツールであり、必ずしも「国際人」=「英語を話せる人」ではないということに気が付いたのです。現在は、「国際人」として必要な精神的な部分――世界には異なる文化や習慣や言葉を持つ人々がいるということ、お互いの違いを認めて理解し、助け合うことが国際社会で必要であることなど――を生徒に学ばせるようにしています。
根岸 他者との違いを認め、その違いを尊重することは、ビジネスの世界でもとても大事なことです。ソニーは世界中に支社を持っていますが、例えばマレーシアの工場では、決まった時間になるとみんなお祈りを始めてしまうんですね。でも、それはその国の文化なのだから、きちんと理解して尊重するべきだと思うのです。違いを認め、お互い尊重し合うことで、一つのビジネスを一緒にやっていくことができるのです。
 他者との共生は国際人を考える上で大切なキーワードになると思います。民族を越えて、自分とは違う他者との共生まで広げて考えられるようになって始めて国際人と呼べるのではないでしょうか。


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