VIEW21 2002.4  指導変革の軌跡 福島県立安積黎明高校

 校舎の3階の窓から外を見渡すと、真新しい野球場とサッカー場が目に入る。「男子生徒を迎えるに際して新設したんですよ」と安田博教頭先生。
 約90年の伝統を持つ安積女子高校は2001年4月、共学の安積黎明(あさかれいめい)高校として新しいスタートをきった。現在、100名の男子生徒が勉学に励んでいる。その大きな変化をきっかけに、同校は今後進むべき道を新たに模索し始めた。
 進路指導部長の星隆雄先生は、改革に着手したきっかけを次のように語る。
 「ご存知のように、現在の高校は週5日制や『総合的な学習の時間』の導入、国立大のセンター試験5教科7科目への対応など、様々な課題を抱えています。共学校として生まれ変わったのをきっかけに、本校が抱えている課題を洗い出して整理し、SI(スクール・アイデンティティ)に基づく進路指導、学習指導を再構築しようと考えたのです」
 元々福島県屈指の進学校として地域の信頼も厚い同校には、個々の教師がきめ細かな進路指導・学習指導を行ってきたという自負はあった。しかし、「授業や進路指導のノウハウ、学年単位で行っている数々の行事などは、システムとして学校全体で十分に共有されていなかった」(星先生)と言う。そこで、星先生は「最初に学校としての大きな理念を決めて、指導のねらいを明確化すれば、学校全体として何をどのように取り組めばよいか決まってくるはずだ」と考え、学年主任の教師をはじめ、進路指導部の菅野京一先生、教務部の大竹儀一先生と共に分析と検討を重ね、一つの結論に達した。
 「本校は国公立大学への現役合格を一つの指導目標としてきました。保護者並びに生徒へのアンケートを見ても、進学指導への期待は大きい。大学入試における志望達成が、保護者・生徒・教師が共通して持つ至上命題であることは明白です」(星先生)
 しかし、ただ受験のための勉強をさせるだけでは十分ではない。生徒に学びの大切さを伝えるにはどうすればよいか……。校内での議論を繰り返した結果「入試をクリアするための指導が、すなわち生徒の人間的総合力の育成につながる」という結論に行き着いた。星先生は、その理由を以下のように説明する。
 「大学の入試問題は、『こんな人材が欲しい』という大学のアドミッションポリシーが最も端的に表れているものだと思います。入試問題を単に技術的に解いて正解を出すということではなく、もっと掘り下げて一つひとつの問題の意図を読み取っていくと『大学側が求める人材』が見えてきます。生徒に質の高い入試問題を解かせ、その奥にあるその問題の本質を見極めさせることは、生徒の学力を向上させるだけでなく人間形成にも役立つのだと捉え、これを共有していこうと考えました」(星先生)
 各学期が始まる前には入試問題をベースにした定期考査問題をつくり、授業の問題演習は良質の入試問題を利用するなど、授業、定期考査、校内模試などすべてが入試問題を解くことに連結する指導を実践しつつ、そのシステムの構築を進めた。さらにそれをベースに進路指導、週5日制、教科指導など、取り組むべき課題を七つ挙げ、各課題について具体的な目標を設定した(左表参照)。そして01年10月、職員会議において「進路指導部よりの問題提起」という形で提示し、教師全員で再確認し、さらに検討を重ねた。
 「学校として大きな目標を達成するためには、全教師が課題を共有し、一丸となって指導に当たることが大切です。資料作成の前には先生方の意見を募りましたが、45分×7コマの授業、土曜セミナー開催などについても反対はありませんでした。学校の置かれている状況や教育環境の変化の中で、先生方が『やらなければいけない』という認識を共有しているからだと思います」(菅野先生)
 同時に保護者とのコンセンサスづくりも徹底させている。菅野先生は、「有効な情報は可能な限り資料化し、保護者会や文化講演会などあらゆる機会を使って提供して忌憚のないご意見をいただいています。情報の共有は合意形成の必須条件だからです」と語る。

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教師と生徒が一丸となり、「知の最前線」を目指す安積黎明高校。職員室では、民族問題など、世界が抱えている社会問題について教師と生徒が意見を戦わせることも珍しくない。



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