「武高さくらプラン」の経験を活かして研究を開始する
2000年度、佐賀県立武雄高校は「総合的な学習の時間」(以下「総合学習」)を導入した。元々は県教委の研究開発校指定を受けてのことだったが、同校はこの指定を積極的に受け止め、総合学習に関する本格的な検討を開始した。研修部主任を務める福田浩一郎先生は、その背景を次のように語る。
「実は、本校では県教委の指定を受ける1年前に、独自の取り組みとして『武高さくらプラン』(以下『さくらプラン』)と名付けた取り組みをスタートさせていました。これは、従来は単独で実施してきた進路学習や異文化理解教育などを有機的に再編成し、生徒自らが自分の在り方・生き方を考えながら進路選択ができるような仕組みを構築しようというものです。本校でも、目的を与えないとなかなか学習へ向かいにくい生徒が見られるようになっており、生徒に内発的な学びの動機付けを行う必要性を感じていました。また、『さくらプラン』は単なる進路指導にとどまるものではなく、一連の活動を通じて『総合学習』が訴える『生きる力』の育成を積極的に図っていこうというコンセプトも持っています。ですから県教委の指定を受けたときも、『さくらプラン』の要素をうまく活用することで、本校独自の『総合学習』の在り方が見えてくるのではないかと考えることができたのです」
では、同校の「さくらプラン」とは、具体的にどのような取り組みなのだろうか。福田孝義教務主任は、その概要を次のように説明する。
「『さくらプラン』を支えるのは、自己理解、職業研究、学問研究、国際理解、自己発信という5つの柱です。これら5つの柱に基づく様々な教育活動を、1年「しる」(情報の収集)、2年「みる」(体験活動)、3年「きめる」(進路の決定)という学年ごとの目標に沿って展開します。実は本校においては従来、生徒の進路観や主体的な学びの姿勢を養うプランが、あまり体系立って整備されておらず、中国への修学旅行や、進路講演会などの行事も、それぞれをあくまで単独の行事として実施していました。これらを体系立った指導ストーリーの下に再編し、生徒を十分に伸ばしていけるようなシステムを構築することこそ、『さくらプラン』の目指すものなのです」
コンセンサスづくりを狙った学年進行でのスタート
同プランは99年4月、当時の1学年を対象に始まった。職業・学問研究はもちろん、大学教員の出張講義や海外修学旅行など、今まで実施されてきたすべての特別活動が「さくらプラン」のコンセプトに基づいて洗い直された。また、新たな取り組みの実施については、1学年の担任団を中心に議論が行われた。
全学年同時にスタートを切らなかった背景には何があるのだろうか。
「まずは1学年のみで取り組みを始め、その成果を見てもらいながら、徐々に校内のコンセンサスを得ていこうと考えたのです。また、3年間を通じた有機的なプランにしたいという思いから、学年進行がベストだと判断しました」(福田浩一郎先生)
その意味で、99年度の1学年での取り組みの成否が「さくらプラン」を全校的な取り組みとして定着させるかどうかのカギを握っていると言えた。その点に関し、進路指導部主事の荒川信義先生は、次のようなエピソードを語る。
「取り組みの参考とするために、先進事例校を10校以上も訪問しました。そして、その際に留意したのはできるだけ担任団全員で行くようにしたことです。数名の教師だけが実際に訪問し、その報告を他の教師が聞くというスタイルでは、なかなか先進校のノウハウはつかめません。また、そうした方法では『これから大きな改革に取り組むんだ』という意識を教師間で共有できません。すべての教師が主体的に参加する土壌づくりこそ必要だったのです」
学年主任が強力なリーダーシップを取ったこともあり、1学年は意思統一を随時図りながら議論を深めていった。そして重ねられた議論の結果、主にLHRなどの特別活動の時間を使用して職業・学問研究を中心とした活動を行うことが決定された。
「従来行ってきた職業・学問研究は市販の教材などに頼ったもので、必ずしも生徒の状況に応じて自発的な進路選択を促すようなものではありませんでした。そこで、『さくらプラン』の時間では、クラスを一旦解体し、『文学系』『工学系』『医療系』など進路志望別の12の班ごとの活動を重視していくことにしました」(福田浩一郎先生)
志望進路を同じくする生徒同士を集めることで、学習意欲の向上を狙ったのである。また、その主要行事として、系統班別に同校の同窓生から様々な職に就く社会人を招聘して学習会が行われた。生徒には事前に講師のプロフィールを紹介した質問票を配り、講師はその質問票を基に、講演内容を組み立てた。生徒に「自発的に進路学習を行っている」という意識を持たせるためである。
同校にとっては全く未経験の取り組みだっただけに、同窓生の確保などに予想以上の苦労があったという。だが、1年目の活動が終わったとき、参加した教師たちは大きな充足感を得ていた。
「従来の指導では見られなかった生徒の好反応を見て、先生方も新たな活動に対する自信を深めたようです」(福田浩一郎先生)
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