VIEW21 2002.4  特集 必要とされる「総合人間力の育成」の視点

生徒は「強制」を嫌い、納得しないと「学び」に向かわない

 資料2は、高校2年生を対象としたベネッセ文教総研と高校の先生方との共同研究の結果得られたデータである。高校2年生の進路意識の発達段階を、(1)無関心から(8)達成に至る8段階で計測したところ、II~IIIレベルに51%、IVレベルに33%が集中した。(4)模索から(5)探索のレベルに移ると、A-内面的な目標の設定B-進学目標具体化率などは一挙に上昇し、「夢を描ける生徒」に成長している。このような意識変化は学習行動に反映され、(5)探索から(6)希望のレベルに達すると、F-学習に向かう意識G-宅習定着率の確実な向上が認められる。
 しかし、(7)早期完了に達すると、F・Gはむしろ低下している。これは「意味不安」は克服したものの、新たに「能力不安」と対峙するため、「なりたい自分」の自己修正に迫られるためで、このような試練を経て、人間的成長が約束される。
 I~IIの発達段階に属す生徒のA-内面的な目標の設定のレベルは30%未満で極めて低く、「夢が描けない」というクライシス・サインを発信している。学力レベルで偏差値58以上に属す生徒はIV~Vレベルに到達しているケースが相対的に多い。しかし、IIレベルにとどまっている生徒が27%、IIIレベル以下の状態―意味不安(どう生きるのか)と対峙している生徒は54%に達している。学力到達レベルが高いからといって、必ずしも「社会を生き抜く」視点が定まっているわけではない。ここに生徒が「課題解決型」の学習、つまり「社会の中で自分はどう生きるのか」についての答えを求めている理由があると言えよう。この要求にこれまで高校現場はHR活動・特別活動などの「場」を活用した進路指導で応えてきた。特に低学年においては、自己理解と将来展望にかかわる学習が必要とされ、精力的に進路学習が展開されてきた。
 ところで、大学人が受験生に求める資質・能力の中で、大学で学ぶために絶対必要だと指摘するのは、

1. 論理的思考力(物事を筋道立てて、論理的に考察することのできる力)69%
2. 文章表現力(自分の考えを文章を用いて正確に表現できる力)61%
3. 自己表現力(自分の考えを、他の人に分かりやすく話すことができる力)60%

 これら3つの資質・能力はこれまで指摘してきた「目標追求型」と「課題解決型」学習の相互作用によって育つものであり、「自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、より良く問題を解決する資質・能力を育てる」(高等学校学習指導要領―総則)という高校教育が育成する生徒像を包括的に示していることとほぼ一致しているのである。
 目標追求型の学習は、読み書きとか計算といった強制を伴う「学び」によって知識の獲得や理解力を育てることをねらいとする系統学習であり、学校の教育機能の大きな柱である。しかし、現実に子どもたちが「強制」を嫌い、「納得」しないと「学び」に向かわないので、「学びに向かう力」を育てる必要がある。このために「課題解決型」の学習が動機付けとして浮上し、獲得した知識を用いて考えさせ、表現させるといった相互作用がさらに活性化することを期待して「学びのすすめ」がアピールされたのであろう。

図

<前ページへ  次ページへ>

このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。

© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.