VIEW21 2002.4  特集 必要とされる「総合人間力の育成」の視点

公立は教科指導につながる仕掛けを模索
私立は全人教育と教科指導に二極化

 高校現場では、「総合学習」を通して生徒が身に付ける「生きる力」と、大学入試で求められる学力とのかかわりをどのように認識しているのであろうか。その調査結果を01年1月と02年1月で比較したのが資料2-3である。
 01年に比べ「その他(不明・未定含む)」が減っているのは、「総合学習」に関する方針の決定がもう「保留」できない時期になっていることを示している。
 選択率が増加したのが、「大学入試には必ずしも直結しないが、将来の社会人生活に活きてくる」(5.2ポイント増加)、次いで「工夫次第で教科学習の意欲も大きく向上させることが出来る」(2.4ポイント増加)という捉え方である。逆に、「入試結果に反映されることは少なく、現実には教科指導を中心に考える」は、4.7ポイントも減少している。授業時間の削減など厳しい現状はあるものの、「総合学習」を単に教科学習に読み替えるだけでは、短期的に生徒の成績は伸ばせても、3か年を通した生徒の成長が見えてこないという高校現場の考えが背景にあるようだ。
 「大学入試にきちんと反映されるために、大学入試の改革が急務である」という考え方は昨年同様、選択率がかなり低い。現状の大学入試制度では、高校時代に「総合学習」で培った生徒の力を正しく評価することは難しいというのがその理由である。今後、実際にAO入試が各大学の理念(アドミッション・ポリシー)に沿って行われるようになれば、高校側の見る目も変わっていくと思われる。
 資料2-4では「総合学習」に対する公立校・私立校の認識の差異が非常に明白に現れた。最も目に付くのが「工夫次第で教科学習の意欲も大きく向上させることができる」の数値である。私立校が26.4%であるのに対して、公立校は55.0%と過半数を超えている。01年1月のアンケート結果と比較すると、私立校は01年度も26.6%とほとんど変化がないが、公立校は01年度の43.8%から11.2ポイントも上昇している。フリーアンサーには「教科学習の深化につながらない『総合学習』は、校内コンセンサスが得られず、3年間の指導ストーリーに定着しない」などの指摘が散見される。「総合学習」に対する「教科学習との相乗効果」への期待が非常に高まっている背景には、やはり国立大のセンター試験5教科7科目実施の影響がある。実際には、「総合学習」が教科学習に効果的につながる確信があるというよりも、そうあってほしいという期待の高まりであるようだ。
 一方、私立校では公立校と比較して、「大学入試には必ずしも直結しないが、将来の社会人生活に活きてくる」と、「入試結果に反映されることは少なく、現実には教科指導を中心に考える」の選択率が高い。
 これはある面、私立校の置かれてている厳しい現状を示している。少子化が急速に進む中、保護者は支払う学費に見合う満足度の高い指導成果を学校に求めている。特に、進学校においては生徒の進学志望の達成支援は今まで以上に必須となっている。その上で、将来につながる人間力も育成できることを示す必要があるのだ。「総合学習」が教科学力の向上につながるかも知れない、という曖昧な判断では実施できないことになる。教科学力を伸ばすのか、生徒の人間力を伸ばすのか、私立各校の「総合学習」実施のねらいは非常に明確になっている。

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