VIEW21 2002.4  特集 必要とされる「総合人間力の育成」の視点

3 Case Study
事例研究-各校の取り組みから課題を探る-

 2003年度新カリキュラムの編成は公立・私立を問わず、すべての学校にとってこれからの自校の在り方を問い直す作業でもある。自校の個性を活かし、教育環境の変化に対応したカリキュラムを編成するための課題とは何か。全国各校の取り組みから考えてみたい。

公立高校の取り組み
伝統(75分授業)を変える決断が
学校改革の気運を一気に高める
(静岡県立浜松北高校の場合)

 週5日制や新課程への対応として、授業時間や学期制を見直す学校は少なくない。期待される成果の反面、見直しにより今まで校内に積み上げてきた指導手法が通じなくなる危険もある。静岡県立浜松北高校もこれまで大きな成果をあげてきた2週1サイクルの75分授業を、週5日制の完全実施や2003年度新課程を視野に、02年度から50分授業への変更を決定した。その決断の背景と、変革を成功に導く施策について、同校の清水一昭教務部長にうかがった。

 浜松北高校は長年にわたり、前週・後週1サイクルの1日75分授業×4コマという非常に特徴のある授業時間を取り入れてきた。「75分授業は我が校の伝統で、その強みは今でも十分活きています」と清水先生は語る。
 「普通、高校生を対象に1コマ60分を超える授業をすると、生徒の集中力が途切れがちです。しかし、本校は長年75分をベースに指導スキルを構築してきました。例えば、国際科の英語の授業では生徒が課題研究を行い、その成果を英語でプレゼンテーションするといった取り組みが日常的に行われています。このように本校の教師は75分授業であることを活かすための工夫に積極的ですし、何より生徒たちが高校生では難しいと言われる75分授業での指導を受けることに対して、浜北高生としての誇りを感じていました。ですから、75分授業を50分に変更するという決断をしたとき、生徒たちのモチベーションが下がるのではないかということも懸念しました」
 それでも同校が思い切った改革に乗り出したのは、週5日制への対応や新課程の実施に伴う、カリキュラム編成上の問題を避けて通れなかったからだ。
 「03年度新課程では、2単位科目が増加します。この変化が03年度カリキュラム編成上の大きな問題となりました。1日75分×4コマ、1週20コマという枠の中では、授業変更が難しく、また、クラス間での授業時数のアンバランスが生じやすくなってしまいます」
 そんな状況に追い討ちをかけるように、01年度には国立大のセンター試験5教科7科目実施の動きが本格化した。難関大を志望する生徒が多い同校にとって、理科の複数科目対応は切実な課題であり、慎重に検討を重ねた結果、移行期の教育課程から対応していくことが決定された。浜松北高校の代名詞とも言える75分授業の見直しは、校内に教育環境変化に対する認識と、新しい指導スタイル構築への気運を一気に高めた。

「公開授業」とシラバスづくりで授業を改革する

 50分授業の方針を固めた同校は、次に新たな枠組みにおける授業手法の研究に着手した。
 「01年の秋にほとんどすべての教科で試験的に50分授業を実施しました。そして、それを『公開授業』として他の教師が見学し、問題点を検討したのです。見学は教科の枠にとらわれず自由にしましたので、数学の授業を英語の教師が見学するといった光景が随所で見られました。今までの75分授業で培ってきたノウハウが、どうすれば50分授業で活かせるのか不安がある中で、お互いの授業を見学し合うことは、授業研究の上でもずいぶん参考になったと思います。また、それ以上に教師全員で取り組んでいくのだという雰囲気もつくりましたね」
 この大胆な「公開授業」に続いて、同校が力を入れているのがシラバスづくりである。
 「50分授業だからこそ、一つひとつの授業にメリハリを利かす工夫が必要だと思います。そのために、一回一回の授業で何をどこまで教えるのかといった、先を見通した指導計画が重要になります。本校では3年間の指導を見通した各教科のシラバスを02年度中の完成を目指して作成中です。各教師が試行錯誤しながら工夫した結果を、一つのチームとして校内で共有していく必要があると思います」


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