VIEW21 2002.6  新課程への助走

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指導スキルの向上をベースにした
きめ細かな指導体制の確立

 同校では45分授業の効果を最大限に発揮するための鍵は、授業内容をどれだけ生徒一人ひとりのニーズに応じたものにできるかにあると考えている。02年度からはその具体的な対策として、『Let's try』という小冊子と、生徒の『個人カルテ』を用いた学習指導のさらなる精緻化に取り組んでいる。
 「本校では従来より、生徒に1日の学習時間や、年間・週間の学習計画を記入させた『Let's try』という冊子を指導に活用してきました。『個人カルテ』はそのデータを基に、模試の成績から得点率の低かった単元までさらに詳細に記入したものです。本校ではこれらを活用しながら『進路検討会』という取り組みを実施してきました。これはカルテに記された個人データを基に、クラス担任と教科担任が協力して、生徒一人ひとりの学習状況や課題を洗い出そうという試みです。従来は3年生のみを対象としていましたが、02年度は1・2年生に対しても年間で各3回実施します。今後はさらにカルテの活用を深め、03年度以降は生徒個々人に応じたオーダーメイド型の週末課題の作成を目指します」(柳浦先生)
 さらに、こうしたきめ細かな指導を実現するために、同校では教師一人ひとりの指導スキルの向上にも積極的に取り組んでいる。
 「生徒のニーズを吸い上げ、授業に還元していくためには、教師の指導スキルの向上が欠かせません。本校は00年に県教委から学力向上対策重点校支援事業の指定を受けて以来、教師の指導力向上に努めており、これまでにも入試問題の分析や研究授業・公開授業の実施、シラバスの作成を実施してきました。その成果をさらに発展させるべく、今後も研究を続けていきます」(檜田校長)

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「総合学習」による学習目的の明確化と
モチベーションアップ

 授業改革と合わせ、学力向上策の両輪として考えられているのが生徒のモチベーションの掘り起こしである。中でも学習目的の明確化については、重点的に取り組む必要があると檜田校長は言う。
 「成績が伸び悩んでいる生徒の中には、学習に対する明確な目的意識を持ちにくい者が少なくありません。そこで本校では、従来より実施している『キャリアリサーチ』と名付けた取り組みを、『総合学習』の時間を活用して実施することで、生徒の学習に対するモチベーションの掘り起こしを図ります」
 「キャリアリサーチ」は、3年間を通じた体系的な職業・学問研究プランである。そして、その中心的な取り組みが、大学のキャンパスや企業を実際に生徒が訪ねる「研修修学旅行」の実施である。
 「研修修学旅行に向け、生徒には幅広い視点から職業研究、学問研究を行うよう指導します。確かにこうした活動が直接学力向上に結び付くわけではありませんが、たとえ一人でも目的意識に目覚めた生徒がいれば、それは必ずプラスの影響を周囲に与えるはずです。事実、数年前に成績が底辺をさまよっていたような生徒が、研修先でロケットのエンジンを目の当たりにしたことをきっかけに猛勉強を始め、難関大に合格したことがありました。そして、そのクラスでは一人の生徒の変化をきっかけに、クラス全体の雰囲気が大きく変わっていったのです。そうしたプラスの循環を『総合学習』で学校全体に生み出したいと考えています」

今後は中高連携の取り組みが課題に

 檜田校長のリーダーシップの下、教師たちが一丸となって指導改革に取り組む府中高校。03年度に向けた同校の対応は磐石のように見える。だが、檜田校長は「考えるべき課題はまだ残っている。それは中高連携の問題だ」と指摘する。
 「03年度に向けて全国の高校ではそれこそ『自校でできることはすべてやる』という気概を持って対応が進められていると思います。しかし、事ここに至れば、高校側で考え得る対策はほとんど考え尽くされつつあるのではないでしょうか。例えば、センター試験の5教科7科目化に対処するためには、進路選択の早期化が否応なく求められますが、それを高校3年間というスパンで対応しようとしても限界があります。普通科においても、1年次からのコース制の採用などが議論に上っていますが、中学校の進路指導の実状も把握できない中で、新入生に進路選択を迫るようなコース設定には疑問の余地があります。中学校、高校が密接な協力体制を築き、6年スパンで生徒の能力を伸ばしていけるようなシステムを築くことを今後は摸索すべきでしょう」
 この視点は、奇しくも前出の磐田南高校と見解を等しくする。方法論の差こそあれ、新課程における教育の在り方を真摯に検討すれば、見えてくる課題は同じなのかも知れない。

資料3 指導力向上に向けた府中高校の取り組み
入試問題研究
進学志望者の多い広島大の2次試験問題を、過去3~5年間分に渡り分析。研究成果については各教科の研修会で発表し、国公立大の2次試験対策に活用すると同時に、普段の授業の改善や定期考査等の作問の工夫を図った。
作問研究会
入試問題等を研究し、その成果を課題テストや実力テストの作問作業において還元する試み。従来は個人レベルで実施される傾向が強かったが、教科単位の組織的取り組みとして発展させた。
模擬試験問題分析
年間で実施したすべての模擬試験について、各教科の担当者が問題分析を行い、それをまとめて「進路だより」として生徒に配付。「授業を聞いていればこの問題はできていたはず」という意識を生徒に持たせると共に、分析する教師自身にも、「入試問題を解けるようにさせる授業」への意欲を生んだ。
研究授業・公開授業
授業内容の相互点検を目的に実施。日頃の授業を担当教科の指導主事に見てもらい、助言を受けたり、地域や保護者に授業を開放することで、教師の授業研鑚へのモチベーションを高めることができた。
シラバス・進度表の作成
学校全体で統一した様式のシラバスを作成。1、2年生において進路選択・教科選択に活用された。ただし、内容の改善、生徒による活用方法などの点では課題を残した。

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