「以前から国際交流事業に積極的に取り組んできた本校では、7年前から『海外語学研修』を実施し、オーストラリアの提携校に毎年20名弱の生徒を派遣してきました。『海外語学研修報告会』は、海外に出かけた生徒が、その体験を他の生徒に語って聞かせるイベントとして継続的に実施してきましたが、報告会はともすると一方的な発表の場になってしまい、せっかくの体験談がうまく生かしきれていない面もありました。そこで『他の生徒に少しでも異文化を身近に感じてもらうにはどうすれば良いか』というコンセプトの下、『国際理解』全体を見通しつつ取り組みを再編したのです」
まず、既存の取り組みである「海外語学研修報告会」については、「生徒同士の話し合い」という要素を新たに付け加えることで、他の生徒の参加意識を高めることが目指された。
「発表の際は、生徒が海外研修で実際に直面し、困ったことについて話してもらうことにしました。さらにその際はすぐに解決策を言わずに『さて、あなたならどうするでしょうか』と、生徒同士で話し合う機会を必ず設けるようにしたのです」
取り組みの様子について、同じく中心メンバーの一人で1年担任だった岩本みどり先生は次のように語る。
「例えば『ホストファミリーの家で出された食事が口に合わない、さて家族には何と言えばいいか?』などと、具体的なシチュエーションを連想させる質問が飛び出しました。何より質問が具体的でしたから、生徒は考えやすかったと思います」
一方、新たに立ち上げられた「国際理解ワークショップ」は、「国際理解講演会」と「海外語学研修報告会」における「国際交流って何だろう」という投げかけを発展させるものとして位置付けられている。「生の異文化体験」を重視したプログラムが組まれており、実際に外国人ゲストを呼んで、討論会、交歓会などを行う中から、生徒たちは様々な国の文化を学んでいく。
当日のゲストは金沢大の留学生を中心に、日本語が堪能なアメリカ、ポーランド、タイ、ベネズエラ出身者など、10か国・計16人。1限目は1年生8クラスを16の分科会に分け、それぞれに外国人ゲスト一人が付いて「高校生活」「家族の在り方」をテーマに討論した。そして、2限目の全体会では生徒全員を目の前に分科会ごとにその成果をポスターにまとめて発表した。「発表」の要素を採り入れた意義を中田先生は強調する。
「NFTには、『自己表現』という要素を採り入れましたが、それは小論文指導など特定の活動だけを指すのではありません。『国際理解』における討論やポスター作成も、『自己表現』とのリンクを考えています」
一方、「国際理解ワークショップ」においては、生徒の主体的な参加を引き出すべく様々な工夫が行われている。取り組みのリーダーとなるような生徒に対し、事前に「リーダー研修」を実施して意識を高めたほか、事前の資料づくりから当日の司会までも、生徒の自主性に委ねたのである。ワークショップの運営をサポートした永井尚子先生はその重要性を指摘する。
「生徒全員が参加意識を持てるよう、生徒自身で準備をする機会・時間を設けました。放課後、昼休みの事前研修、そして当日と生徒が積極的にかかわってくれたことが取り組みの成功につながったと思います」
「国際交流」の統括に当たった沼田良一先生も、別の角度から生徒の主体的な参加の大切さを強調する。
「本校は単位制ですから、特に2年生以降になると科目選択の幅が広がって、同じクラスのメンバーと一緒に何かをやる機会がほとんどなくなってしまいます。1年生のうちに一つの目標に向かってクラスで力を合わせる体験ができたのは素晴らしいことですし、ひいてはそれが、単位制の中でクラスの絆を深めていくことにもつながるのです」
一連の取り組みはその後の発展性も考慮されている。異文化理解への関心をさらに高めたい生徒のために、外国人とともに一泊二日の研修を行う「国際交流合宿」が、別枠の学校行事として設定されている。これはNFTに含まれる活動ではないが、学校の取り組み全体の連携を考え、実施時期などが調整されている。
「国際交流ワークショップ」の一コマ。各国事情について調べた生徒は、結果をポスターにまとめて発表する。調査項目は「学校に制服はあるのか」といった身近な話題から、習慣・風俗といった話題まで様々。
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