予習の仕方が分からない生徒に対応するために
宮崎西高校は、従来から全国に先駆けて様々な取り組みを実践してきた高校である。例えば、1992年から94年には「学校週5日制調査研究協力校」として、現在の「週5日制」による単位数減を見越した授業改善、学習指導法の改善を実践してきた。年間指導計画に基づく教材の精選や週末課題の出し方の工夫、到達度を確認するテストの実施、習熟度別授業や個別指導の工夫など、その取り組みは多岐に渡っている。また、00年から01年には「小・中・高等学校連携推進事業」の研究指定校として、校区内の小・中学校と連携して授業研究の取り組みを行ってきた。中学・高校の授業を互いに参観し、授業内容の違いを実感できたことは、高校1年次の導入期の指導を考える上で非常に有効であったという。このように中高接続の重要性に目を向けてきた同校では、高校入学直後の学習指導を重視し、99年より、4月中旬に「学習方法体験講習会」を実施している。同校が体験講習会を始めた背景について、進路指導部部長の土持勝洋先生は次のように語る。
「本校では毎年家庭学習時間を調査しているのですが、全国的な傾向と同様に年々減少傾向にありました。その上、4年ほど前から、こちらが『予習してきなさい』と言っても、そもそも予習の仕方が分からないという生徒が出てきたのです。公立の中学校では出される課題が非常に少ない上に、中学生の通塾率は90%を超えており、生徒は塾でしか勉強したことがないという現状でした。そこで、まずは予習の仕方を実際に体験させる必要があると考えました」
「学習方法体験講習会」は、自習時間と模擬授業とで構成されている。生徒に予習の必要性に気付かせ、そのやり方を習得させることと、授業の受け方を身に付けさせることを主眼に置いている。そのため、体験講習会は実際の授業が始まる前の4月中旬に3日間かけて実施される。対象となる教科は国語、数学、英語の3教科。自習時間45分と模擬授業45分を合わせて1コマ90分の講習会が1日4コマ開講される。土持先生は「生徒にとって90分連続で勉強をするのは初めての経験でしょうし、それを4コマ3日間も続けるのは大変なことだと思います」と言う。そういう意味では、「学習方法」だけでなく「学習時間」も体験できる講習会だと言えるだろう。
学校によってはこうした入学時の学習指導を、合宿として宿泊施設を借りて行うケースも少なくない。だが教頭の長友良夫先生は「あえて学校で体験講習会を行うことにこだわっている」と言う。
「合宿という非日常的な場では、せっかくの取り組みも一過性のイベントに終わりがちです。『学習方法体験講習会』は、毎日の予習の仕方や授業の受け方の習得を目的にしているのですから、宿泊施設よりも学校で行う方が、取り組みを普段の家庭学習や授業へと継続させていく上で効果的ではないかと考えたのです」
体験講習会で予習+授業のシミュレーションをする
では「学習方法体験講習会」の具体的な内容を、英語を例に見ていくことにしよう。
英語では、まず生徒にプリントが配られる。プリント中の英文は、教科書の本文から抜粋したものだ。生徒は1コマ90分の体験講習会の時間のうち、45分間を使ってこのプリントに取り組む。そして残りの45分間で、プリントを基に模擬授業を受ける。
実はこの「プリントに取り組む→模擬授業を受ける」という流れは、そっくりそのまま普段の授業での「予習に取り組む→授業を受ける」という流れのシミュレーションとなる。同校の英語科の場合、普段の授業も予習プリントを使って行われるからだ。プリントに取り組む時間を45分間に設定しているのは、家庭での1教科当たりの予習時間を45分程度と想定しているため。1年生の英語を担当している大竹克彦先生はこう語る。
「体験講習会を通じて、予習によって授業の理解度が格段に深まることを生徒に実感してもらうのがねらいです。また、予習の仕方のコツもつかんでほしいと思っています」
その期待通りに生徒は体験講習会を通じて、たくさんのコツを体得していくことになる。例えば中学校の教科書には単語の日本語訳が掲載されているため、辞書を引いた経験がない生徒も少なくない。大竹先生は「辞書を引くと一つの単語には、いろいろな意味があることが分かるはず。その中からどれが当てはまるか、類推することによって力が付く」とアドバイスする。最初は辞書を引くのに時間がかかっていた生徒も、3日間辞書と首っ引きになっている間に次第にスピードが付き、辞書を使うのが苦痛ではなくなっていく。
生徒はまた、体験講習会で授業の受け方も身に付けていく。大竹先生は生徒に、ノートを修正する際は、消しゴムではなく赤ペンを使うように指導している。
「消しゴムを使わせると、間違った答えを消して、正答だけを書き込む生徒がいるんです。これでは自分がどこでつまずいたかが分からなくなります。そこで生徒には、間違いは赤ペンで訂正するように指導しています。そうすれば復習をするときに、自分の弱点が一目で分かりますから」
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