学際的な見地で物事を学ぶ
「大学に課されている使命には、大きく分けて研究の業績を上げることと、学生の教育に力を注ぐことの二つがあると思います。しかし、今までは研究業績が評価の対象となることが多く、教育面での業績はあまり表に出ることがありませんでした。ただ、今後グローバル化した社会で活躍する人材が輩出するためには、より『教育』に力を入れる必要があると思います」と上智大の笠島副学長は語る。
同大学では、大学教育の質保証の一貫として、本年度より成績評価を細分化し、また欧米で使われている評価基準※GPAを全学的に採用するなど、学生にもより意欲的な学問への姿勢を求めている。
文系・理系の壁を取り払い、学際的な視野で物事を学ぶ力の養成も奨励している。「生命と倫理」「地球環境と科学技術」などは特に重要なテーマとして全学共通科目で取り上げている。外国語学部では副専攻制度を設け、異なる外国語を専門とする学生が集まって授業やゼミに参加する制度が確立されている。
その他「人間とはなにか」を哲学、倫理学、宗教学等の視点から考え、今日の時代にふさわしい価値観や判断力を養う全学生必修の科目「人間学」も設置されている。
一方、すぐに社会で役立つ人材の育成を求められている大学の場合、コミュニケーションツールとしての語学力の育成も欠かせない。
「大学での英語教育は、単に英語の技能を習得させるだけではありません。それらの技能を駆使して、専門的な研究を進めることが求められているのです。高いレベルで自分の考えを述べ、相手の考えを理解することが必要ですから、語学力は語学系の学生だけではなく、理系の学生にも必要な能力になります」と吉田教授は語る。
上智大では、入学直後に大学で独自に開発したプレイスメントテストを実施し、学科の壁を取り払った能力別の英語のクラスを編成している。一人ひとりの実力に合わせた英語学習ができるように配慮されているのである。
「専門性を身に付けると同時に、国際人として必要な幅広い知識や語学力を身に付けなければいけない。そのバランスをどう取っていくのかは、最終的には学生個人が判断することになります。これからは益々個人の教養や専門性、判断力などが重視されてくるでしょう。大学での教育も個々の学生の成長を重視します。高校ではしっかり基礎を押さえておいてほしいですね」(笠島副学長)
※Grade Point Averageの略で、大学在学時の履修科目の成績を、A=4、B=3、C=2、 D=1、F=0などと換算し、ポイント化したもの。欧米において一般的に行われている成績評価方法の一種。
語学力とITは必須条件
では、大学のもう一つの使命である「研究」の分野では、国際化はどのように進んでいるのだろうか。
東京大大学院の黒田教授は次のように語る。
「理数系の研究者の場合、どの機関でどのような研究をしたかが最も重要視されます。その人の国籍や、どの国で教育を受けたかは、全く関係ありません。そう言った意味では、研究の分野はとても平等で国際的ですね」
特に、日々驚くようなスピードで進化している科学技術分野の場合、世界の第一線で勝負をしていくためには、必然的にグローバルスタンダードに照準を合わせる必要がある。
「研究発表や論文はすべて英語です。世界的に評価の高い学術雑誌は、すべて英語で書かれているので、日本語で書いても世界的には全く通用しないのです。日本の学会では、もちろん日本語ですが、その他、日本語を使用するのは、日本語しかできない人に向けて啓蒙活動をする場合などですね」
さらに、黒田教授は、語学力に加え、ITの知識を身に付けておくことの必要性も強調する。
「昔は、学術雑誌は海外から郵送されてきていたので、届く頃にはその情報は既に古くなっているということが多々ありました。しかし、最近はインターネットで最新の雑誌を即座にダウンロードできるようになっています。研究論文の投稿すら、メールで行われています。お陰で図書館に行く回数がめっきり減りました。一方、インターネットが数時間使えない、あるいは、PDFにデータを変換したり圧縮したりなど、基本的なコンピュータの使い方を身に付けていないがために、先に同じ研究の論文を発表されてしまった、特許を取られてしまったという悲劇も起こりかねないのです」
今回の答申にも「情報通信技術の活用」と挙げられているように、今やITは国際社会では必須ツールになっているのである。
「もちろん、ITは研究の本質ではなく、ツールです。ただ、最近はアメリカでは『ITはマインドだ』と言われているようです。自動車や飛行機が社会の在り方を変えたように、ITも人間関係や社会構造、文化や価値観をも変えるものだということです。果たして、今の日本人にそこまでの認識があるでしょうか。ITの本質を見極め、本当に使いこなせることが、国際社会で生き残っていく鍵になるに違いありません」(黒田教授)
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