VIEW21 2002.9  国際人を育てる THINK GLOBAL

高い専門性と幅広い教養を

 しかし、そのように一見進んでいると思われる研究分野での国際化だが、だからと言って「世界は一つだ」と過信してはいけないと黒田教授は語る。
 「研究には莫大な資金が必要です。その資金の多くを出しているのは政府です。例えば、アメリカでは政府がバイオテクノロジーや医療分野に多額の研究費を出していますが、この成果が特許の数として表れ、国力に直結しています。アメリカが基盤特許をたくさん持っているため、例えば、日本の政府がバイオテクノロジーの研究に20億円を出したとしても、そのうち5億円がアメリカに自動的に流れていってしまうということが実際に起こっています。こういう仕組みを学生はきちんと理解しておく必要があるし、特許など法律の知識も兼ね備えておかなければいけません。文系の学生にしても同じで、理系の知識も兼ね備えていないと、科学技術が日進月歩している現在では、国際社会では通用しないのではないかと思います」
 今回の答申でも、「過去に蓄積された知識や技術のみでは対処できない新たな諸課題が生じており、これに対応していくため、新たな知識や専門的能力を持った人材が求められている」と説かれている。これは、益々複雑化する国際社会において、自分の研究に対する専門知識を持ちながらも、それと他の学問領域や社会とのかかわりを深く洞察する力、すなわち文系・理系の両面に渡った幅広い教養を身に付けた人材が求められているということではないだろうか。
 そのための施策の一つとして、東京大では、英語の授業に『Universe of English』(東京大学出版会)というテキストを使っている。これは、同大学教養学部の教授が英語で書いたものであり、文系・理系いずれの要素も数多く盛り込まれている。文系の学生も理系の学生もこのテキストを使うことにより興味の幅を広げ、国際人としての基礎を身に付けようとしているのだ。

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