VIEW21 2002.9  指導変革の軌跡 滋賀県立水口東高校

しかし、一度
「指導ストーリー」や「ガイド・ピリオディック」のような雛型を作ってしまうと、それがマニュアルとなり、取り組み内容や指導方法がマンネリ化してしまわないのだろうか。
 「『指導ストーリー』は、教師に金太郎あめのような指導を強要するものではありません。我が校には、思いついた人がとりあえずやってみるという風土があるんですよ。「指導ストーリー」の場合、雛型を作ったのは進路指導課ですが、最初から全教師に強要するのではなく、賛成してもらえれば広めていこうという感じでした。各学年の教師がこれをベースにしてどんどん独自色を出していってくれればいいと思っています。指導目標が共有されてさえいれば、あとは学年で自由に考えればよいのです」(辻田先生)
 強制ではなく、独自色を出せる雰囲気が、教師の意欲アップにつながっているのだ。実際、教師の提案によって行事の中身を変えたり、各学年団で相談しながら指導の中身を工夫したりということが、自由に行われている。
 「例えば、学年によっては『指導ストーリー』にはないけれども、校内弁論大会を実施したり、衛星放送を使って補習を行うなど、アイデアを思いついた教師が、他の教師にどんどん働きかけて実施しています。いいと思ったことはとりあえずやってみる。本校にとって本当に必要な取り組みは定着していってますが、中にはうまく根付かなかったものもあります。ただ、こういう雰囲気づくりは大切だと思います。『やってみたらいい』というのと『そんなのやらなくていい』とでは大きな違いですからね」(辻田先生)
 同校では、進路指導において「指導ストーリー」の共有化の他に生徒との面談を重視している。時期ごとにきめ細かく面談を重ねる中で、生徒に自らの目標をはっきりと意識させ、日々の学習の見直しを促している。そのため、面談指導において教師間でスキルの差や指導方針の差が出ないように工夫している。
 「生徒の進路に関する面談は原則として職員室で行うようにしています。以前は担任が個々に面談を行っていたのですが『安易に受験科目を絞らせていないか』『実力ある生徒の芽を摘んでいないか』などの判断が、担任によってまちまちになってしまい、再度生徒一人ひとりの受験校の見直しをしなければならなくなってしまうことがありました。面談を職員室で行うことによって、他の教師の面談を見ることができ、内容を確認できるので、個々の教師間で指導内容がずれなくなったのです」(奥村敬一郎校長)

「指導ストーリー」の
共有や面談の工夫により、学校全体としての体系的な進路指導を心掛けてきた同校。その気風をさらに強固にするために、01年度は思い切った分掌改編を行った。
 「生徒指導課、進路指導課、学年団の相互乗り入れを始めたのです。例えば進路指導課は6名のうち3名が専任であとの3名は各学年の学年団との兼任です。逆に学年団から進路指導課の補佐に入ってもらった者もいます。また、昨年3年生を担当した教師が、今年は3年生の担当補佐となり、受験期の指導をバックアップしています。同じく昨年3年生を担当した教師が、1年生の担当補佐にもなっています。3年生を経験した教師が入ることで、1年生から3年間を見通した指導ができるようにしました」(木下先生)
 組織の相互乗り入れにより、分掌間、学年間の壁がなくなり、お互いが持っている情報やノウハウを結集した生徒指導が行いやすくなったのだ。
 「担当を兼任している教師にとっては、確実に負担が増えました。ただ、我が校には、熱意があればどんどん自分がやりたいことを実践できるという気風がありますし、教師が手をかけた分だけ、生徒は応えてくれます。それが教師のやる気アップにつながっているのではないでしょうか」(辻田先生)
 「指導ストーリー」の共有化や分掌改編を通し、生徒の指導に力を注げる仕組みをつくってきた同校。03年度からは併設型の中高一貫校として新しい道を歩み始めることが決まっている。
 「主体性を持って自分で人生を切り開いていける生徒を育てたいと思っています。そのためにも、今後は生徒の発達段階に応じた6年間の体系的な『指導ストーリー』を作っていきたいと思います」(辻田先生)


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