VIEW21 2002.9  創造する 総合的な学習の時間

「評価」を「総合学習」の活動の一部として位置付ける

 西彼杵(そのぎ)半島沖約50キロに浮かぶ五島列島・中通(なかどおり)島。その中心部に位置する上五島高校は、1999年度に文部省(現・文部科学省)の研究開発校に指定されたことを機に、「総合学習」に取り組み始めた。立ち上げ当初は活動内容を巡って紆余曲折があったものの、現在では1・2年生に「上五島の地域活性化を考える」というテーマ学習が、そして3年生にはディベート学習が定着した。そして01年には、全国に先駆けて生徒の学習活動に対する評価にも着手、一層の取り組みの深化を図っている。生徒の学習意欲の向上や進学実績への波及効果、さらには学校全体の活性化など、「総合学習」の実施は同校に大きなプラスの変化をもたらしているが、そんな中、いち早く「総合学習」の評価について研究を始めた背景について、石井勝典校長は次のように語る。
 「生徒の自発的な学びを重視する『総合学習』が成果を上げるためには、生徒が自らの活動を振り返る機会を持つことが重要です。『自分がどのような活動を行い、その結果どんな力が身に付いているのか』を認識しない限り、いくら素晴らしい活動を行ってもそれは単なる『やりっ放し』に終わるでしょう。本校では、『総合学習』における評価を、学習活動の一部として位置付けています」
 そこで同校では00年度から、生徒に活動の自己評価を行わせたり、クラス内やグループ内で相互評価を導入するなどの取り組みを開始した。さらに01年度からは、その実績を整理・再編し、評価活動の在り方そのものについて、本格的な検討を始めたのである。だが、同校の「総合学習」研修主任を務める石橋誠一郎先生によれば、その道のりは決して平坦なものではなかったようだ。
 「確かに『総合学習』の導入当初から、自己評価シートの配付や生徒同士の相互評価を取り入れてはいました。しかし、活動そのものの体系化・理論化が不十分だったため、『とりあえずやってはいた』というのが実状でした。当初は評価項目などもあまり練られていませんでした」
 そんな状況を脱し、「評価」の在り方を確定することができた背景には、00年度に「総合学習」全体の学習目標が明文化され、育成すべき生徒像が明確になったことが大きいようだ。
 「『情報収集力、自己表現力、社会性の育成』という大きな目標が確定したことで、評価の観点が明確になったのです。これに基づき、研修部を中心に十数回も案を練り直した結果、現在の評価方法の大枠が確定しました」(石橋先生)
 度重なる議論の末にできあがった同校の評価方法とは、一体どのようなものなのだろうか?

到達度評価の数値化で生徒の成長を見える形に

 評価方法の確定に当たり同校がまず初めに決定したのは、生徒の力を「到達度」の観点から評価することだった。
 「生徒を伸ばすため、あるいは生徒が自分の力に対する自信を得られるようにするためには、到達度評価が最も適切だと判断しました。また、生徒が自分の力を確実にチェックできるよう、評価は数値にしてフィードバックすることにしました」(石井校長)
 点数主義からの脱却をうたう「総合学習」の評価を数値で示すという試みは、一見するとかなり意外な手法にも思える。だが、石井校長は、「到達度評価だからこそ数値化する意義は大きい」と指摘する。
 「確かに教科科目のような相対評価に基づく数値化ならば、『総合学習』の評価には馴染まないでしょう。しかし、到達度評価の指標として用いるなら話は別です。というのも、生徒が自らの実力の伸長を知るためには、目に見えない到達度を何らかの形で目に見えるようにすることが必要だからです」
 評価の数値化を可能にするため、評価項目(同校では評価規準と呼称)の検討には多大な労力が費やされた。
 「評価項目は学年によって多少の増減はありますが、各学年5~6つの観点で20項目前後です。各項目について4段階で評価を行います。また、観点別に生徒に求める目標も設定しています。例えば『企画力』であれば、3つの評価項目があるので満点を12とすると、目標値は9というようにです(図1)。評価するためにはできるだけ具体的、かつ単純な指標でなければなりませんから、研修部が中心となって何度も原案を練りました」(石橋先生)
 また、生徒が毎回の活動後に記入する『活動の記録』というプリントには、評価項目が一覧となって示されている。生徒が毎回これを目にすることで、学習目標を意識しながら活動に向かえるようにとの配慮からだという。

図1 上五島高校「総合的な学習の時間」評価票
(2年生のものを一部抜粋)

表

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