VIEW21 2002.9  特集 学校改革のビジョンづくりに向けて

 特色ある学校づくりに当たって避けて通れないのは、学校教育を支えている生徒・教職員・保護者(地域社会)の実態をリサーチし把握することである。これが満足されないと、学習指導要領を弾力的に運用することはもちろん、発展的な教育活動を構想することが単なる「思い付き」に終わってしまうのである。とりわけ、教育環境が激しく変化し、迎え入れる新入生の高校の学習に対するレディネスも年々多様化が予想されている今、教育活動の構想に当たってリサーチマインドを発揮していくことの意義は増大していると言える。
 教育課題に対する教職員の認知と実践レベルの計測は、学習内容や指導方法の適切性(レリバンス)を確保するために必要であるが、生徒の学習到達度評価は、個々の生徒の成長度を計測(絶対評価)すると共に、「つまずき」の原因追求とその克服に寄与しないといけない。
 このことは、生徒の自尊志向と訓練志向を動機付けとしてどう準備するか、というテーマでもある。しかし、「到達」や「達成」と言える基準(分割点/カッティング・スコア)を客観的に設定することが困難であることも指摘されている。
 これらの問題点を克服するためには相対評価法(過年度・他校対比や地域社会の中での位置付けなど)を併用することが現実的な対応だと考えられている。
 文部科学省が、教育委員会に到達度評価の実施を促し、各都道府県でこの試みが実行に移されつつあるのは、こうした現実を反映していると言えないだろうか。
 家庭や地域社会と遊離した学校は存在しないし、地域社会にファン・シンパの多い学校はそれなりの支持を受け、満足度の高い学校なのである。
 満足度が高い学校とは「学校が楽しい」と子どもたちが評価する学校である。ベネッセ教育総研が調べたデータから見ると、「この学校に来て良かった」とか「後輩にもこの学校を勧めたい」といった感情(思い)を抱くのは、次の3因子が大きく寄与している。
 第1因子=教師のインセンティブ(学びに対する好奇心の醸成)
 第2因子=生徒が学習活動にコミットしていると思う効力感
 第3因子=生徒同士、生徒と先生の間にインタラクション(交流)が起こっていること
 これらの3因子は、子どもたちが学びに向かう要件でもあり、結果として人間的成長を実感するのである。

卒業生による学校評価

 学校の教育活動を支えている生徒・保護者・教職員の自己評価を対比させる方法は、かなりの高校で採られている。また、中学校の教師による高校評価を行っている高校もあるし、卒業生による評価を試みているケースもある。
 宇都宮高校(栃木県)は、75年前後から適性を重視した進路学習をいち早く体系化した学校で、全国の先導的地位を保ってきた。
 72年に始まった卒業生を対象とする調査は、ほぼ10年ごとに実施され00年に第4回のレポートを公表している。このデータに基づいて作図したグラフ(資料5)から、大学進学時の「適性」重視度、学部・学科と「適性」の一致度、さらには、現在の職業と「適性」の適合度などが今回の調査では過去最高の高まりを示していることから、同校の自分探し=なりたい自分の発見と目標設定に基づいた進路学習の成果をうかがい知ることができる。現在の職業との「適性」の適合度の高まりには、高校時代における自分探しの取り組みが社会に出てからの自己実現に向けた自己変革=人間的成長を促していることが推察される。
 教育活動の成果は、本来、このように長いレンジで評価されるべきものであり、同校のように自校が送り出した生徒たちが、どのように人材として育っているかを学校教育の自己点検・自己評価の課題の一つとして捉えておくことは、これからの学校のPDCAサイクルを考えていく上で非常に大切なことではないだろうか。

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