また「SOSEKI」の成果は、学びの場としての大学にも大きな影響を与えつつある。
「私たち事務の人間も、教官も、学生も、『SOSEKI』を導入してからは大学全体のことがより広く目に入るようになってきたと思います。煩雑な手続きや特別な情報収集をしなくても、掲示板や履修登録のシステムを使えば他学部履修や大学間交流の情報を知ることができますから、より自発的に学内外との交流に参加する機会が増えてきています。教官や事務にとっては、学生の履修の動向を把握したり、授業評価アンケートを行うことで学生の要望を聞くこともできます。学生同士や、学生と教官とのコミュニケーションを創り出すことができるという点でも、『SOSEKI』の導入は意義深かったと思います」(宮津氏)
熊本大では現在、学生と大学側、あるいは学外とのコミュニケーションをより深めるため、この「SOSEKI」を使った授業評価アンケートシステムの利用法や一部情報の公開についての検討が行われている。
「授業評価アンケートは、大学のこれからを考える上で非常に大きな可能性を秘めているものです。これまでは、アンケートをとってもその集計結果を学生に報告することはありませんでした。今後は『SOSEKI』を媒介として大学側からのレスポンスもどんどん行い、学生とのコミュニケーションをさらに深めたいですね。また、高校あるいは社会に向けて、来年1月にはシラバスと教官研究情報を公開し、進学あるいは人材採用の現場でも役立ててもらいたいと考えています」(宮津氏)
「シラバス参照」の画面。授業形態、授業の目標、授業の内容などが詳しく記述されている。
「履修登録状況参照」の画面。工学部1年生の前期カリキュラムだ。
情報技術の活用が新しい授業形式を生み出し 知の世界を拡大する
情報処理ツールから、学内のコミュニケーションツールへと進化を続ける「SOSEKI」は、情報技術による学習つまりE-Learningへの可能性も秘めている。
「将来、ネットワーク上で教材や宿題を提示し、学生が利用するといったところまでいけば、新しい教育システムとしても『SOSEKI』は、より意義深いものになるはずです」と宮津氏、後藤氏は声を揃える。「将来」とは言うものの、実は熊本大は既にE-Learningの世界でも他をリードする基盤を持っている。それは「Space Collaboration System(SCS)」と名付けられた衛星通信大学間ネットワークである。衛星通信がなぜE-Learningかというと、次のような事情がある。
「SCS」は、元々、大学間の学術交流を推進することを目的に文部省(現文部科学省)が推進し、全国の大学に設置を呼びかけたテレビ会議システム。熊本大では97年に導入された。
文部省の行うセミナー等の受講はもちろん、理系学部での共同開発におけるディスカッションの他、熊本大では昨年から5大学の工学部との共同授業も行い、その単位も認める仕組みをつくって「SCS」の活用に努めてきた。内容は「知的所有権入門」「特許戦略の実際」など、1大学の工学部の中だけでは受講できないような授業、あるいはそれぞれの大学で特徴のある授業をセレクトした。「SCS」での授業を体験した学生も「他大学の授業の様子が分かり、刺激になる」「もっと定期的に利用したい」など前向きな感想・意見が多く、実験動物を使った共同講習会などにも人気が集まった。しかし、こうした評判の一方で「SCS」の使用頻度は年に数十回程度である。
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