VIEW21 2002.10  新課程への助走

生徒・保護者に伝わる形で学習の成果を提示

 そんな久保野先生が、現在シラバス的な位置付けで生徒に配付しているプリントの一つを、下の資料4に示した。確かに詳細な授業進度表などは見当たらないが、学習目標の明示という点においては明確なメッセージが込められている。「ビデオで見る先輩たちの勇姿」という項目がそれだ。
 「私の授業では、スピーキング力の評価をスピーチやロールプレイなどを用いた学期末の実技テストで行います。昨年度の1年生には、アメリカのテレビ番組の有名人インタビューをモデルにした『有名人架空インタビュー』を行いました。こういった活動の様子を撮影したビデオを次年度の後輩に見せるのです。学んだ成果を具体的に見せることは生徒の意欲の向上、授業に対する納得感の向上に大きな効果をもたらします。成果の見せ方についてはペーパー材料にとどまらない手法を考えることも必要なのではないでしょうか」
 学習の成果が具体的に見える→その実力を養うための学習に納得して生徒が取り組む。このサイクルを生み出す上で、この手法が持つ効果は大きい。1学期初めのオリエンテーションで動機付けを行うことにより、以後の学習がスムーズになるわけだ。
 久保野先生はさらに、生徒に見せたものと同じ内容のプリントやビデオを保護者会などでも活用している。
 「保護者への説明責任を果たす機能がシラバスには求められます。学習目標が明確に示され、それが達成できていることが伝わることで、保護者の間にも学校の教育方針に対する理解が醸成されていきます。また、学校の指導に対する信頼が高まれば、生徒の通塾率が低下することも期待できるのではないでしょうか」
 シラバスを通した情報開示は学校の教育力に対する信頼を生み出す。それは結果的に、家庭と連携しながら生徒を育てる空気を生み出すことにもつながるのだ。

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学習目標を共有し方法論は各教師に委ねる

 同校では今のところ、ここまで徹底したやり方は個人レベルに任されている。確かに1学年を1人の教師で担当することが多い同校の場合、「同一学年での指導スタイルのブレ」という問題は起こらない。しかし一方で、大きな教育方針の調整はできても、教科として指導方法までを調整していくのは容易ではない。だが、久保野先生は「コンセンサスづくりをそれほど難しく考えてはいない」と言う。
 「これからシラバス作成に取り組もうとする多くの学校が、教師間のコンセンサスづくりに苦労することと思います。恐らく『シラバスの作成が教師の創意工夫を妨げる』という意見は、どこの学校でも出てくるでしょう。しかし、初めにコンセンサスを得るのは学習目標だけで十分ではないでしょうか。『方法論については教師の自主性を尊重する』ということにすれば合意が得やすいですし、もしそれで学習目標が達成できなかった場合には、各教師の指導スタイルの問題点を明確にでき、修正することができるわけです。その意味でも、学校として育てたい生徒像を明確にし、検証に堪え得る学習目標を設定することは重要でしょう」
 ともすれば、進度表の焼き直しになりかねないシラバス作成。久保野先生が強調する「学習目標の明示」という視点は、その危険性を回避する上で重要なポイントになりそうだ。


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