VIEW21 2002.12  国際人を育てる THINK GLOBAL

日本人は既に国際化されている

 現代では、テレビやインターネットなどの情報ツールが発展し、瞬時にして世界中で起こっている様々な事柄を把握できる。この観点で言えば、日本人は皆国際人と言えるだろう。しかし、問題はそのような環境の中で、どれくらい自己と世界を結び付け、その関係性を理解できるかということだ。自己と世界の関係性を正しく理解し、良識を持って行動できるような生徒を育成しなければならない。例えば、アメリカでの同時多発テロ。この事件も国際理解教育のまさに現代的な題材の一つになる。
 まず、テロが起こった背景を調べさせる。きちんと理解させるためには、宗教や歴史なども知るべきだし、地理的な情報を集める必要もある。そのような情報を集めて、自分なりに国際社会の構図を描かせ、日本とのかかわりや、自分はそのような社会の中でどう生きるべきかを考えさせることが、国際理解教育と言えるだろう。

これからはバイリテラシーの時代が来る

 また、「英語ができるから国際人」というのは明らかに間違った見識である。しかし、正確な情報を集めるためには、日本語を話せない人に質問する、日本語以外の言語で書かれた文献を読むという機会が必ず出てくる。そのための道具としての語学力は、持っていると絶対的に便利である。
 これからは「バイリテラシーの時代」と言われている。一つだけではなく、もう一つの言語での読み書きができないと対応できないということだ。科学技術の世界では、もはや英語が共通言語になっているように、国際社会で活躍する人材にとっても、母語+英語の読み書きはやはり大切な要素であろう。
 そのためには、せめて高校の段階では、中学校レベルの「読む・書く・聞く・話す」の内容を自在に使えるようになっておいてほしい。「中学校の内容でいいのか」と思われる先生が多いと思うが、中学校レベルでまずは日常会話には事足りる。今の大学生を見ていても、中学校レベルの英語を自由自在に使いこなせている人は案外少ないのが現実だ。

留学生との交流だけでは「国際理解教育」とは言えない

 「国際理解教育」というと、「留学生との親善交流」や「海外でのホームステイ」と考えてしまいがちだが、これらは国際理解へのモティベーションアップの一つの手段にしかすぎない。大切なのは、先にも言ったように、世界の仕組みをどのように深く生徒に理解させていくかなのである。
 来年度からは「総合的な学習の時間」で国際理解教育を取り上げる学校も増えてくるだろう。「そうは言っても、何をしてよいか分からない」という声をよく聞くが、普段の授業の中でも国際理解教育を行うことは十分可能である。
 世界史で「十字軍の遠征」について教えるとする。多くの教科書では、ヨーロッパ側からセルジュク・トルコ側に攻め込む内容しか掲載されていないが、それだけではなく、その時のセルジュク・トルコ側の状況や、それらが現代の社会とどうつながっているのかも教える。様々な視点から物事を考える訓練が大切なのである。ただ、そうは言ってもなかなかそこまで時間が割けないのが実状だとしたら、「世界四大文明」から始めずに、より生徒が興味・関心を持てる分野から始めるなど、授業に工夫の余地はあるように思う。
 私は、授業ですべてを教える必要はないと考えている。例えば、「高校の時に世界史を習わなかったから世界史は分かりません」と言う学生が時々いるが、正直がっかりしてしまう。書店に行けば、世界史に関する本は溢れているし、普段の生活からも情報はいくらでも集められる。国際人として活躍する人材を育てるには、そういった生徒の意識を変える必要があり、それこそが教師の役目ではないだろうか。
 具体的には、テーマ設定や情報収集の方法、物事の見方、意見のまとめ方、意見交換の仕方など、「学習方法」を教えることが重要になる。国際理解教育は、国際理解教育のための授業によってのみ成り立つのではなく、日々の授業の中でも十分に実践できると言える。


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