神戸の街を一望できる緑豊かな丘陵地に建つ須磨学園高校。「須磨女子高校」として77年の歴史を刻んできた同校は、99年4月、「須磨学園高校」として男女共学校に生まれ変わった。と同時に、今までの教育観を見直し、地域や時代のニーズに合った高校へと生まれ変わるべく、学校改革をスタートさせた。
女子高時代から同校で教鞭を執る山本恵美子先生は、学校改革をスタートさせた背景を次のように語る。
「少子化の影響で、本校でもそれまでの10年間で定員充足率が急激に落ち込み、合格した生徒の入学率も減少していました。かねてからの懸案であった男女共学への移行だけでは、生徒の減少はもはや食い止められないのではないかという危機感が、理事長はじめ、学校全体を動かすきっかけとなりました」
女子高時代は、周辺地域からは「生徒のケアはきちんとしてくれるが、進学校としてはまだ力不足」と言われていた。そこで、もう一度原点に戻り「今の時代の学校に求められていることは何か」「生徒や保護者、そして地域は同校に何を期待しているのか」などの問いに答えを見いだすことから改革の糸口を探っていったのである。
保護者へのアンケート実施や専門家の助言、経営陣と教師との度重なる会議などの結果、見えてきた答えは、「進学校として信頼され、生徒の進路選択の多様化に応えられる高校」として生まれ変わることだった。
「もちろん、進学率を上げるだけでは魅力的な学校とは言えません。女子高時代から続く“『個』の育成”や“『向上する心』を育む”といった人間性の陶冶も欠かせない要素です。それらを含め、まず私たちは、10年後にどんな学校になっていたいかという目標を立て、次に中期5年計画、そして年次計画を立てていったのです」(山本先生)
赴任して2年目という英語科部長の松本一郎先生も、まずこの点に驚いたと言う。
「普通、学校では達成可能と思われる目標を積み上げて何年後かの姿を描こうとするものです。ところが本校では、まず10年後の目標があり、その目標を達成するために5年後、3年後、今年、そして今学期は何をすべきかという逆算の発想をしています。ですから一見達成不可能な目標が立てられることになりますが、目標はそれくらいでなければ意味がないのです。その目標を達成するために知恵を絞って初めて私学の生き残る道が開けてくるのだと思います」
とは言え、
同校ではこのように大きな学校変革のプランを立てる際にも、決してトップダウン型にはなっていない。同校には「SMASH1」「SMASH2」という2つのプロジェクト組織がある。「SMASH1」は、理事長、学園長をはじめ管理職クラスの組織。「SMASH2」は、6年一貫教育の研究などをするための若手中心の組織である。
「『SMASH1』から、大きなプロジェクトの方針が出されます。その具体案を『SMASH2』のメンバーで協議し、実行に移せる具体案にまで練られたのち、再度『SMASH1』に戻されます。10年後のあるべき姿のために今何をなすべきかを考えたとき、『SMASH1』と『SMASH2』との間でキャッチボールを繰り返すことで、自ずと最適解が見つかります」
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