VIEW21 2002.12  指導変革の軌跡 島根県立松江東高校

 新年度のスタートを間近に控えた3月下旬、1年生のクラスを担任することになった7人の教師は、学年主任の泉雄二郎先生から1枚のプリントを手渡された。「学年運営の構想 レポート作成のお願い」と題されたそのプリントは、1年次の学年運営の重点目標や、目標達成のための具体的指導案、入学してくる子どもたちを高校3年間でどんな生徒に育てたいかといったことを、各担任ごとにA4で1枚程度のレジュメにまとめてほしいというものだった。「各レポートの内容は、これから始まる学年会の中で発表していただき、ディスカッションを行います」とも書かれてあった。
 17ルーム(1年7組のこと)の担任をすることが決まっていた吉岡淳先生は、受け取ったプリントに目を通しながら、「泉先生は面白いことを思いついたな」と感じていた。1年生を受け持つときは、他の学年とは一味違う期待感がある。まだ生徒の顔も性格も知らない入学前の段階から、「こんな風にクラスや学年を動かしていきたい」というイメージが自然と浮かび上がってくるものだ。
 「新入生のイメージを事前に共有化しておけば、入学後の指導にもブレがなくなるはず。レポート作成と発表はその良いチャンスになるのではないか」と吉岡先生は思ったのだ。
 佐々岡貴子先生は、転任早々に「レポート作成のお願い」を渡された。最初は正直戸惑ったが、「レポート作成と意見交換によって早く学校を知ることができた」と語る。

多くの場合、
学年会が発足すると、学年主任の教師は自らの構想によって1年間の学年運営の方針を立て、他の教師に提示するものだ。だが今年、第1学年主任となった泉先生はあえて運営方針を明示せず、「学年運営の構想 レポート作成のお願い」によって各クラスを担う教師全員に方針を練ってもらうという方式を採用した。もちろん泉先生自身も、15ルームの一担任としてレポート作成に加わった。そのねらいは明瞭だ。
 「新1年生の担任団は平均勤務年数がわずか3.7年だったんです。私自身も本校に来て2年目に過ぎません。誰もが東高教育に対するイメージが未形成のまま、新入生を迎えることになりました。しかしその状況を、むしろメリットとして捉えたのです」
 同校の1年生の担任団は、40代が2人、30代が4人、20代が2人。教師の高齢化が進んでいる学校現場の現状を考えると、かなり若い。学年運営方針を上から伝達する形で浸透させるのではなく、メンバー全員でつくり上げていった方が、若い教師の意欲と力量を高めていくことにつながるだろう、と泉先生は考えたわけだ。また11ルーム担任の才木克宏先生は、次のような効果を指摘する。
 「学年会の一員として主体的にかかわることで、それぞれの教師が自分の担任しているクラス運営だけではなく、学年全体の運営へと視野を広げられたと思います。教師がお互いに協力しながら、すべての生徒を指導していくという意識を持つことができました」

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学年会では、学年運営に関するレポートをベースに話し合いが持たれる。学年運営に関するイメージを共有化することで、生徒に語り掛ける言葉にブレがなくなる。



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