VIEW21 2002.12  指導変革の軌跡 島根県立松江東高校

 今年初めて担任を受け持った13ルーム担任の安部由文子先生は次のように語る。
 「学年運営構想は、初めて担任を受け持った者にとってはとても心強いですね。机の引き出しに入れておき、指導の指針としています」
 指導方針の共有化と教師の力量アップ、そして教師の視点を学年全体へと広げること。それがレポート作成のメリットというわけだ。入学式直前に2回に渡って開かれた学年会では、先生方がレポートを片手に、学年運営に関する思いをそれぞれ語り合った。その結果を汲み取った上で、初めて泉先生の手により「第1学年運営構想」や「学年会の基本方針」が作成された。

4月当初は
「レポート作成のお願い」は年間の基本方針についてだけのはずだった。だが同学年会ではその後も、5月、6月と、ひと月ごとの学年運営構想のレポート作成を行うことになる。
 「最初に先生方にレポートを作成してもらったときに、生徒理解の点でも、教師自身の力量を向上させるという点でも、得るものが大きいと認識したのです。そこで皆さんが月々の学年運営をどう考えているかについても、レポートを作成していただき、週1回、45分の学年会の中で話し合おうと思ったんですよ」と泉先生は語る。
 レポートのテーマは、年間指導計画の流れや生徒の様子を見ながら泉先生が設定する。6月は「中間考査後の印象」や「学習活動の動機付け」「進路の意識付け」、7月は「遅進者への手当・早進者への刺激」などがテーマとなった。月々の運営構想を各教師がレポートにすることのメリットの一つは、より具体的な対策案が出てくることだ。例えば、才木先生は教科別の個別指導の重要性を訴え、井山俊一先生は、学習意欲が低下している生徒に対して、仲良しグループで勉強会を実施してはどうかと提案した。
 特徴的なのは、こうした提案の中から効果があると判断されたものは、学年半ばでも積極的に行事の中に取り込んでいるという点だ。夏休み前に行われた「学習相談会」もその一つだ。
 「1学期終盤になると、高校の勉強に適応している生徒と、授業についていけない生徒との差が目立つようになりました。そこで学年会で、いわゆる学習遅進者に対して予習・復習の仕方や学習計画の立て方を各教科担当がアドバイスできる場を、夏休み前に設定したいという話になったわけです」(泉先生)
 学習相談会には、予想を大幅に上回る150人強の生徒が参加した。
 「いかに多くの生徒が、勉強の仕方について悩んでいるのか実感できました。今回は、参加人数が多すぎて、一人当たりの時間が短く、本当に問題を抱えている生徒へのきめ細かいケアができなかった。学年会で検討を重ね、次の学習相談会ではもっと生徒の個人的な悩みに対応できるように改善していきたいですね」(吉岡先生)
 また1年生の学年集会の場では、部活動やボランティア活動に主体的に取り組んでいる生徒が、他の生徒の前でスピーチをする時間も設定している。これも学年会の話し合いの中から生まれてきたものだ。
 このように、月末の学年会で翌月の計画を立て、すぐに実行に移すというやり方は、教師の負担が大きくなるという苦労はあるが、生徒の現状に機敏に対応できるという意味で、大きなメリットがあると言えるだろう。進路指導部長の大塚次男先生は次のように語る。
 「本校は、来年創立20周年の若い学校です。伝統がない分、前例に縛られない創意工夫ができるのが後発校の強みなのです」

図

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