「データで考える子どもの世界」
 VIEW21 2002.12  点から線の教育へ 中・高・大接続の深化形

絶対評価の客観性を高めるには
「評価規準」の設定が急務

 小・中学校では、02年度から高校より一足早く新課程がスタートした。それに伴い、中学校では従来の集団に準拠した評価(相対評価)に代わり、目標に準拠した評価(絶対評価)による評定が導入されることとなった。集団内の相対的な成績の位置で評価する方法から、設定した学習目標を、生徒がどの程度実現できたかという到達度を評価する方法に移行したのである。
 しかし、目標に準拠した評価といっても、どのような目標を立てるか、また、どのような観点で評価するかによって内容は異なってくる。そのため、評価の観点を明確に示すことが重要となる。
 国立教育政策研究所教育課程研究センター統括研究官の工藤文三氏は、絶対評価を行う際の観点について次のように語る。
 「今回の指導要録では、各教科について『関心・意欲・態度』『思考・判断』『技能・表現』『知識・理解』の4つの観点から評価することになっています。これは、『観点別学習状況の評価(以下観点別評価)』と呼ばれますが、この評価方法は以前から中学校では行われていました。ただし、これまでも観点別評価は行っていたものの、最後の評定は相対評価でした。今回は、評定が絶対評価に変わったので、観点別評価と評定の関連付けが明確に求められるようになったのです」
 評定が絶対評価に変わることで、従来よりもさらに観点別評価に対する客観性・信頼性が求められるようになると工藤氏は言う。
 「客観性・信頼性を高めるためには、生徒の学習活動のどの部分をどのように見て評価するかを明らかにする『評価規準』を作成することが最重要課題となります。評価規準については、国立教育政策研究所でも02年の2月に、参考指針を提出していますし、各都道府県の教育委員会でも、評価規準づくりが進んでいます」(詳しくは『評価規準の作成、評価方法の工夫改善のための参考資料』(中学校)を参照)

4つの観点それぞれに合った評価方法の開発が重要

 また、評価規準と共に必要とされるのが、適切な評価方法の開発だ。観点別評価では、ペーパーテストのみだけでなく、4つの観点と、それに沿って作成した評価規準に合った方法で、生徒を評価する必要が生じてくる。例えば、「関心・意欲・態度」であれば観察法を用いる、「技能・表現」であれば提出された作品で評価するといった具合である。
 ペーパーテストにおいても、従来と違った観点での工夫が必要になると工藤氏は言う。
 「各問題ごとに見たい観点とその到達度を評価できるような作問が必要です。いわゆる絶対評価は、学習指導要領で示された内容を各生徒がどこまで習得しているかということを、教師が確実に把握するものです。評価だけで終わるのではなく、生徒一人ひとりの得意分野、弱点分野を把握し、どう次の指導に生かしていくかが大切です」

生徒や保護者への説明責任を果たす「評価規準」づくり

 では、今後、高校現場ではどのような動きが出てくるのだろうか。
 「今回の新指導要録では、高校でも評定の際に4つの観点による評価を踏まえることが明文化されました。高校でも評価に対する変革の波は避けられなくなってくるのではないでしょうか。今年度中には、高校向けに4観点ごとの評価規準が、国立教育政策研究所から発表されることになっています」
 とは言え、高校現場で単元ごとの詳細な「評価規準」をつくり、観点別評価を行っていくのはすぐには難しい。そこで工藤氏は、「まずは、ペーパーテストの見直しから始めては」と提案する。
 「作問の際は、各問題が4つの観点の中の何を問うているのか明確になるようにしてほしいですね。これまでのテストづくりは各教師に任されていて、教科会議でお互いのテスト問題を議論し合うことは少なかったのではないでしょうか。4つの観点を十分に踏まえながら、組織的にテストづくりに取り組んでほしいと思います。今後は高校でも、学校が生徒に対してどのような教育をし、どう評価をしているのかといった、保護者に対する説明責任が高まってきます。日常の授業の中に観点別評価の考え方を取り入れ、授業目標を分かりやすく明示していくことが、保護者や生徒の信頼感醸成につながるのではないでしょうか」
 現在、高校では授業のシラバス作成の取り組みが広がりつつあるが、今後は学習目標と共に、観点別の評価規準を生徒や保護者により分かりやすい形で示すことが、求められてくるかも知れない。


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