高田 かえって問題提起をしていただいたようですが、専門職大学院というシステムが成立するためには、学部、高校段階で幅広い教養を身に付ける必要性が益々出てくるということですね。
安宅 そういう点を考えながら高校生の指導をするわけですけれど、正直言って高校生の意識はなかなかそこまではいっていないですね。高3くらいになると「何となく大学院に行こうかな」なんて理系の生徒が考え始めますが、文系の生徒の場合は、大学院に行く/行かないというところまではなかなか意識できないようです。そういった情報は、これから我々が指導していく上で、どうしても伝えていかなければならない部分です。
岩瀬 私の学校では、理系に進む生徒には、当然大学院進学まで見通して進路を考えさせます。保護者にも理系に進む場合には、大学院進学の費用もみておいてもらうように話をしています。薬学部の場合などは修士課程にとどまらず博士課程まで充実している大学を選択する必要がある時代になっていると思います。ただし、文系については法科大学院を除いては大学院の位置付けが明確でなく、まだまだ企業の採用も学部卒中心ですので、理系とは様相が異なるところがあります。
【議論4】大学改革と今後の指導 小・中・高・大の連携がより重要に
教養教育の再定義が必要
高田 では最後に、大学改革が高校の指導にどのような影響を与えるのか考えてみたいと思います。
天野 学部段階の教育が教養・専門基礎教育にシフトしていくというお話ですが、実は、91年度以降進行してきたのは、専門教育がどんどん前倒して行われるという事態でした。そこで教養教育復活論が出てきたわけですが、「教養って何だ」という問いが改めて必要だと思います。例えばアメリカでは学部教育について、
(1)communication(コミュニケーション能力)
(2)creativity(自ら物を考える姿勢)
(3)critical thinking(批判的に物事を見る力)
(4)continuous learning(継続的に学習していく意欲)
という「4つのC」という考え方があり、学部教育で何を知識として教えるのかではなく、何を身に付けさせるのかが重要視されています。今後は日本でも、こういう自覚を大学の教官が持つことが求められると思います。
高田 岩瀬先生の地元の南山大では、開学50周年を機に、「リベラルアーツの大学にする」という方針を打ち出しています。そして、学部段階では学ぶ力や学ぶ方法、学ぶ意欲を養い、京都大や名古屋大の大学院に何人の学生を送り出したか、という次元で勝負する方向だそうですね。
岩瀬 南山大のその方向性については、それが非常に強い競争力になるだろうと思います。また、その方向性は、地方の国立総合大もある程度向かっていくべき方向だと思います。今まで地方国立大はミニ東京大、ミニ京都大を目指していたわけですけれども、それではこれからの時代は厳しい。東京大の学生も他大学の学生も、4年後の大学院入試の段階で同じ土俵で勝負できる環境をつくることが大切だと思います。
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