高田 近畿大で先日聞いたのですが、基本的に同じ考えのようです。中堅クラスの大学は、大学入試と大学院入試という2度のチャンスが与えられる社会環境を生かしていこうとしているようです。
天野 今ご指摘があった通り、大学院進学は非常に柔軟になってきています。私がかつていた東京大の大学院教育学研究科は、半分くらいが他大学の出身者でした。人文社会系研究科も経済学研究科も同様です。高校の先生方には、こうした事実を生徒にしっかり伝えてほしいですね。
高田 しかし、先程安宅先生がおっしゃられたように、大学院を意識している高校生はまだ少ないという面もあるわけです。どういう指導が求められるでしょうか。
安宅 進路指導においては、「なぜきみは大学院に行くのか」さらには「なぜきみは大学に行くのか」という問いが改めて必要になるでしょう。生き方そのものの指導が益々重要になると思いますね。
高田 そうすると、文理選択の意味もより重要になると思われます。文理選択の時期は、これまでどんどん前倒しになる傾向にありましたが、近年ではあえて後ろに送るところも出てきたようです。
山上 本校も従来は2年の後半だったのですが、それを3年の頭にしました。一旦文系に決めた生徒が理系に行きたいなんて言い出すケースがあったのです。
天野 大学にいた立場から言いますと、高校の文理分けがあまりに早いという気がします。学部段階での教養・専門基礎教育はもちろん必要なのですが、高校においても教養・専門基礎教育は必要なわけです。
安宅 私たちもその重要性は認識していて、できるだけ幅広く科目履修するよう指導しています。しかし、最終的には大学入試科目との兼ね合いで履修科目を決めざるを得ないのが現状です。仮に中等教育の段階ですべての科目を履修させるとしたら、文系・理系に関係なく大学入試を全科目化するしかないでしょう。
岩瀬 まさにその通りで、例えば東京大の文系が「社会は地歴が2科目必要だ」と言い出せば、枠が決まっている以上、1年生のうちから文理を分けざるを得ません。教養教育と入試の問題は結局「ニワトリが先か卵が先か」の話になってしまいます。
天野 入試の多様化論に、私は初めから反対していたんですよ。そのために受験生が個別の大学ごとに特殊な対応を強いられてしまいますから。入試が悪いのは間違いないんですが、それに過剰適応している側にも問題があるわけです。どこかで鎖を断ち切らないと、「ニワトリか卵か」から脱出できなくなってしまいます。
大学改革を受けた高校現場の課題とは
高田 制度上の問題はありますが、高校、学部段階で幅広い教養を学ばせる必要性は今後の大学改革の流れを考えると益々重要になってくるようです。来年度の新教育課程に向けて、どのような指導が必要だとお考えでしょうか。
安宅 小学校と中学校の学習指導要領が変わって、今までとは全く違った資質を持った生徒が入ってきます。それにどう対応していくかが大切ですね。幅広い科目について理解を深めるためには、学習量ではなく、学習方法を改革していく視点が大切だと思います。
岩瀬 私も同感ですが、その点で6年制の私立校と一般公立校の間の格差が拡大してしまわないか不安です。
山上 医学部では理科3科目の問題が上がっています。しかし、高校側が準拠しなければならないのはあくまでも学習指導要領です。指導時間が限られている以上、我々ばかりが責められても困ります。教育改革の方向性に照らしてそれが必要なものであると考えるなら、現在の教科書の在り方なども見直す必要があるのではないでしょうか。大学が求める知識を高校段階で吸収できるような教科体系を再構築してからでなければ、問題は解決できないと思います。
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