VIEW21 2003.2  創造する 総合的な学習の時間

【1】
校内の不安・負担・不要の声を
どう乗り越えるのか?

CASE 1 教師全員の話し合いを時間割に組み込む

 出水(いずみ)高校が「総合学習」の先行実施を決断したのは、00年度のことだった。だが、「総合学習」の立ち上げに中心的な役割を果たした田口浩太郎先生によれば、あえて先行実施に踏み切った同校ですら、教師の意思統一はなかなかできなかったという。「実施が決まった時点で、教師の7、8割は不安感や負担感を訴えていました」(田口先生)
 そこで同校では、教師の意思統一を図るためにある試みを行った。それは、「教師全員が話し合う機会を物理的に確保する」という取り組みである。同校の玉利博文先生はその概要を次のように語る。
 「まず、全体の企画・立案に当たる『研究委員会』の教師を対象とした話し合いを、時間割にきっちり組み込んで設定しました。第1回はそれこそ学習指導要領を全員で読むところから始めて、徐々に『総合学習』に対する理解を深めていきました」
 委員会内部での共通理解が得られた後は、同じ要領で全教師を対象にした研修会を行った。「総合学習」のスタートまでに、委員会での話し合いは計30回、教師全員による話し合いも計10回を超えていた。
 「あまり積極的ではなかった先生方も『現在の沈滞した学校のムードを何とか変えたい』という思いは共通して持っていました。ですから、議論を重ねるうちに次第に校内の意識は高まり、ブレストなどを行っても意見が出ないということはほとんどなくなりました。話し合いを重ねることで、先生方の根本的な問題意識に訴えることができたのだと思います」(田口先生)

CASE 2 教師の負担感の軽減を図る

 01年度より、小論文学習やディベート学習を中心とした「総合学習」を実施している甲南高校が最も腐心したのが、「教師の負担をなるべく軽減する」ということだった。同校の「総合学習」の原案を作成した藤崎恭一先生は次のように語る。
 「『地球規模でものを考えるリーダーの育成』というSI(スクール・アイデンティティ)の具現化のためにも、『総合学習』は必要であるという合意はすぐに得られました。しかし、実施内容や指導負担に対する不安感にはかなりのものがありました」
 そこで同校では小論文やディベートなどの企画ごとに、具体的な活動内容にまで踏み込んだマニュアル等を事前に作成することで、教師の負担軽減が図られた。01年度、ディベートの実施計画を作成した出原香緒先生は言う。
 「指導される先生方にゆとりがなければ負担感だけが先行し、『総合学習』は行き詰まってしまいます。初めて実施するディベートは、あらかじめマニュアルを作り、活用していただくことで負担の軽減を図りました。一方、内容の細かなアレンジについては指導の中で随時修正していただくようにお願いしました」
 「総合学習」実施に際しては、「必要性は分かるが、負担を考えると難しい」という声が多く聞かれる。同校のアプローチはこの問題に対する一つの有効な解答と言えよう。
 「『総合学習』に対する充実感を教師が持つには、やはり生徒の変容を肌で感じることが一番です。そのためにも負担軽減に配慮しながら、少しずつでも生徒が良い方向に変わっていってくれればという願いを共有することで、徐々に協力体制が構築されていきました」(藤崎先生)

CASE 3 従来の取り組みの成果を背景に説得

 課題研究を中心とした「総合学習」を01年度より実施している川辺(かわなべ)高校の場合は、01年度以前から、学校設定科目として実施していた「テーマ学習」をベースに「総合学習」の指導案が立案された。同校の井川澄明先生は言う。
 「多くの学校では、全く新しい試みというよりは、これまでの学校行事や特別活動の成果をベースにした『総合学習』を立案していると思います。もし校内に負担や不要の声があるなら、従来の組織や経験を生かしたプランを考えることがポイントです。本校では『あのときはこうやった』というノウハウを基に議論を積み重ねることで、比較的スムーズに共通理解を得ることができました」


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