VIEW21 2003.2 特集 「学習力」の構築

地道な計算問題で「継続する力」を養い、「思考力」につなげる

竹内 先生の話とは少し矛盾するかも知れませんが、まず「できる」喜びを先に味わわせることが大切な場合もあると思います。「分かる」ことにこだわりすぎて、「分からないうちはできるようにならない」と思い込んでいる生徒に対しては、「まずは手を動かして解けるようになってから、後で振り返った方がすんなり理解できることもあるよ」とアドバイスしています。
 また、今の生徒たちはじっくりと時間をかけて、物事に取り組むことが苦手ですね。先程、桝本先生がおっしゃったように、すぐに答えを知りたがる。「我慢」ができないんです。そこで、大量のドリルで地道な計算問題を長時間解くことで「継続に耐え得る力」を養わせ、そこから「思考に耐え得る力」を養成していく方法も取り入れています。
桝本 確かに、「問題が解ける喜び」を「分かる喜び」につなげていくことも一つの方法ですね。しかし、最近は優秀な生徒でも、ただマシーンのごとく問題を解き続けるうちに、3年間が終わってしまうケースが多い。優秀な生徒こそ、その流れからできるだけ早く抜け出させ、「得点できる快感」のみで満足することなく、自分なりの考えを自分で評価し、さらに真理を求め続ける喜びを獲得させたいです。
竹内 そうですね。「きみの答えは合っているが、問題の意味するところが本当に理解できているのか」と問い掛けることが必ず必要になってきますね。私は、一つのアプローチとして、問題の本質を考えないと分からないクイズのような出題についてレポートを提出させたり、授業の中で発表する「プレゼン大会」を開くこともあります。興味深いのは、成績の良い生徒が必ずしもこのような活動が得意ではない、ということですね。むしろ、テストの点数が良くなくても、非常に良いプレゼンテーションをする生徒もいます。
桝本 「分かりたい」と思う気持ちは成績の良し悪しとは別の問題ですね。生徒たちは皆、本能的に学ぶことを求めています。「学ぶことの意味」が分かっていないだけで、それは私たち教師にも大きな責任があります。原点に立ち返り、それに挑戦していくことが必要だと考えています。
竹内 ただ現実には、限られた時間の中で授業の進度を確保しようとすると、生徒の「理解」に十分こだわった授業展開は難しく、淡々と授業を進めてしまうことも少なくありません。しかし、だからといって「問題を上手に解かせる」ことだけを追求していたら、今の生徒の抱える根本的な課題にアプローチできないことも確かだと思います。

教師間で生徒に身に付けさせたい力の中身を共有する

桝本 私は、数学の授業を通して生徒に社会で生きる力が身に付くことを期待しています。問題にじっくり取り組む上で身に付く状況判断能力や、論理的思考力、そして何よりも自らの探究から真理を得た自信は大きいものです。簡単なことではありませんが、「これを教えることで生徒の人生が豊かになるか」という視点を常に持っていたいと思います。
竹内 生徒に身に付けさせたい力については、シラバスの作成などを通じて、教師間で共通理解を持っておきたいですね。
桝本 その意味では、新課程の導入は教師同士が話し合う良い機会ですし、必然かと思います。新指導要領の下でどのように生徒に教えていくのか、これから生徒に身に付けさせなければいけない力とはどういったものなのかを相互に研究検討し、確実な視点を持った指導を皆で共有したいと考えています。


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