VIEW21 2003.2 特集 「学習力」の構築

自分で物事を考え言葉で表現できる力を鍛える

戸谷 話は変わりますが、最近生徒と話をしていると、論理的に矛盾したことを言っていても、気付かずに流してしまっている子が少なくないのが気になります。卒業後の社会生活のことを考えても、国語の学習を通じて「論理的に物事を考えられる力、そしてその考えを言葉で表現できる力」を鍛えたいと考えています。また、担任の先生方にもプリントを配ってお話したことなのですが、生徒との日常の会話の中で「なぜそう思うの?」「こういう場合はどうするの?」などの問い掛けをして、思考の幅を広げるきっかけをつくるようにお願いしています。
細矢 確かに自分で言葉を用いて考えることが重要ですね。国語の学習というと「読書をさせればよい」とよく言われますが、単に興味のある情報を得るためだけに、分からない語彙や表現は読み飛ばして読んだ気になっているような「マイナスの読書」では、学習効果が上がりません。むしろ、短い文章でもよいので、きっちり読んで考えることが大切だと思います。本校では、学年主任が主体となって、必ず小論文に関する学年全体の取り組みを行なっています。1年生には、指定図書についての感想文を学期ごとに提出させました。2年生では、各教科の先生や担任の先生が持ち回りで、新聞記事や雑誌の切り抜きを選び、朝のSHRで生徒に配って読ませています。これによって、テーマの種類も広がりますし、短い文章なので、生徒も取っ付きやすいようです。国語だけでなく、いろいろな教科の先生が指導にかかわることで、より生徒の物の見方や考え方が広がると思います。また、組織的な取り組みのため、人が入れ替わっても継続する指導システムを残せる点もメリットですね。
戸谷 本校の小論文指導では生徒同士の相互評価を実施しています。他の生徒の考え方に触れ、相互に評価するという活動を通じて、同じものを読んでも人それぞれの見方があることを知ってほしいと思っています。また、この方法は視野を広げ、思考を深めるきっかけとして非常に有効だと実感しています。

各教科の教師が連携して生徒を複眼的に把握する

細矢 生徒の学習環境を整える上では、各教科の担当教師が連携することも重要です。例えば、本校では国・数・英の課題の量や内容を相互に確認できるようにしています。それぞれの教科担当が欲張りすぎて、生徒がこなしきれない量の課題を出し、かえって生徒の意欲をそいでしまわないようにするためです。また、職員室の黒板には、生徒の名簿表が貼ってあり、各教科の課題の提出状況も一覧できるようにしています。そうすることで、生徒の状況を複数の教師が把握できますし、担当教科以外の課題についても「出ていないけど、大丈夫か」と声を掛けることもできます。
戸谷 本校では、学年ごとに生徒の状況に合わせた指導の工夫をしており、例えば現2年生では各教科が生徒向けの学習アドバイスをプリントにしています。これは、クラス担任が説明を添えて配布することになっていて、各教科が家庭学習の基本スタイルとして、何を要求しているのかを担任も把握できます。日常的に生徒と接し、面談の機会も多い担任が、担当教科以外の家庭学習内容の基本線を押さえておくのは、生徒との信頼関係を強める上で重要だと感じています。当然、より具体的なアドバイスが必要な生徒には教科の先生から直接指導していただく方が賢明ですが、その際にも学年の生徒について、日常的に状況を共有していると「先生たちはきみのことをちゃんと見ているよ」ということが生徒に伝わると思います。

まとめ

 本対談では、生徒の学習意欲を引き出し、主体的な学習へと向かわせるために教科担当の先生方がどのような指導上の工夫をされているのかをうかがった。その結果、指導方法は様々であるものの、共通するいくつかのポイントがあることが分かった。

I 学びに向かわせるために
 高校生の学習動機としては、やはり「実用志向」が有効であることを踏まえ、「授業で習得した知識が実際に使える場面を設ける」ことで、日々の基礎学習の意義を再認識させたり、進路学習を通じて「自らの夢の実現のために必要だから学習する」という意識を持たせるなどの工夫がなされている。
 また、役に立つから学ぶというだけでなく、「学びそのものの楽しさ」や「学ぶことの意義や価値」を生徒に伝え、各教科の学習を通じて「人生をより豊かに生きていくための視野や力を身に付けさせたい」という思いは、すべての先生に共通している。

II 学習の習慣化・定着のために
 家庭学習の記録を取らせ「自らの学習習慣を振り返らせる」ことや、予習・復習課題を課し、「授業と連携した学習が最も効率的であることを理解させる」などの工夫がなされている。また、受身になりがちな生徒気質を考慮して、「声掛けや提出物の確認をこまめにする」など、見守られている安心感を生徒に与えつつも、徐々に強制から自律への移行が可能になるよう、「自分なりの目標を持たせる」などの工夫をしている。

III 生徒の状況を共有するために
 指導の実践においては、教師が連携して生徒の実態を把握・共有しておくことも非常に重要である。その上で、教科内であれば「授業のねらいや指導ポイントの目線合わせを行う」、教科間であれば「課題の内容や量を調整する」などの取り組みが挙げられる。また、「課題提出状況や指導の基本線、生徒の様子」を「クラス担任」と共有しておき、「担任から生徒にちょっとしたアドバイスをしてもらう」など、教科担任とクラス担任の連携も、生徒の意欲を高める上で効果的であり大切な視点である。


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