自己表現し、他者の評価を受けることが 進路発見のきっかけに
今の自分をどうすれば変えられるのか、どうしたら将来の夢を見つけることができるのか、と思い悩む高校生。しかし、今回の企画のように、まずは今の自分の趣味や興味・関心から、将来の「夢」を考えてみることが夢や自分を変えるきっかけを見つける方法の一つ、少なくともその出発点になるだろう。
実際、今回のイベントを通して、今まで知らなかった自分の能力や適性に気付いた高校生はかなりの数に上ったようだ。「自分を見つめ直す機会になった」(宮城県・1年生)「文章に説得力がある、と初めて言われた」(埼玉県・2年生)、「物事を多面的に見る力が足りないことが分かったので、身に付けたい」(岐阜県・1年生)などの声が寄せられている。自分の興味や関心を作品に表出し、同じ高校生や、その道のプロから評価を受けることによって自己理解が深まったのだ。さらに、他者からの指摘を受けたことで、新しい進路を見いだした高校生もいる。例えば、このイベントで自分に自信を持ち、審査結果を持ってAO入試に挑戦した受験生も生まれた。
また、何かモノを作り上げたことの達成感は、新しい意欲を生み出しているようだ。「何事もやってみて初めて結果が出ると分かった」(京都府・1年生)、「作品を褒めてもらえて自信が持てたので、苦手な勉強も頑張ってみます」(愛知県・2年生)、「やればできるということ、そして、それを認めてくれる人はゼッタイいるということが分かりました」(福岡県・1年生)「自分探しの旅に一歩一歩進んでいる感じがします。一回り大きくなりました」(徳島県・2年生)といった声が寄せられている。
このように、作品を作り上げ、それを他者の目で見てもらうということが、自己理解のレベルを高めるチャンスとなり、現状を打破しようという思いを強めるきっかけにもなっているようだ。
寄せられた作品の中には、芸術というには、まだまだ表現の仕方は稚拙で、自分自身の思いをうまく表せていないものも少なからず見受けられた。しかし、それでも、作品の中に、今の自分から脱却しようという思いや、まだモヤモヤとしているビジョンを一生懸命に形にしようという、高校生の「本気」が感じられた。ある高校生は、作品制作を通して自分を振り返り、「何かモノを作り出して、悩んだ気持ちを消化できれば、きっといつでも心にゆとりを持っていられると思います。そのゆとりがあれば、人の立場で物事を考えることができるようになるはず」(鳥取県・3年生)と語っている。
他の生徒作品の審査活動を通して 変化する高校生
自分を振り返るきっかけは作品を作り上げた人だけに訪れるのではない。高校生の応募作品を審査する高校生審査員を募集したところ、「学校以外の友達をつくりたい」とか「ネットで知り合った子に会ってみたい」という理由で集まった審査員が多かった。
しかし、同じ年代の生徒たちの力作を目の当たりにして、「気負わなくても自分なりの夢でいいんだ」(大阪府・3年生)、「案外身近なところに興味をそそられるものがあると分かった」(宮城県・2年生)、「夢は選択肢じゃなくて可能性。好きなことを突き詰めていくのも非常識じゃないんだ」(岡山県・1年生)などと、審査員に心境の変化が見られた。「自分の好きなことから始めてみようと思う」(神奈川県・2年生)、「僕も何かでかいことをやってみたくなった!」(宮城県・1年生)など、自分たちの刺激になり、その後に待っている夏休み期間中に、自分も何かを成し遂げよう、と決意を固める審査員が大勢生まれた。
同じ高校生が、自分の内なる世界を表出して、完成度の高い作品を作り上げているという事実への驚きに加え、作り上げた達成感への憧れもあり、「自分も何かを成し遂げるという喜びを味わいたい…」という気持ちが、高校生審査員の中に芽生えたようだった。他者の作品を審査し評価することは、評価する側の人間にとっても気付きや刺激を受ける貴重な機会になっている。
高校生による審査は仙台、東京、名古屋、大阪、岡山、福岡の全国6会場を使って全国規模で行われた。同世代の生徒の作品を評価することを通じて、互いの取り組みを適正に認め合う視野が養われていく。
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