ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
藤田英典教授に聞く.これからの教育が向かう方向とは?
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教育水準全体の底上げが真のエリートを生む
―日本が国際競争力を低下させていることは事実で、学校でも日本の将来を担っていけるリーダーを育てなくてはいけないという気持ちが少なからずあると思うのですが。
 人材育成に関しては、トータルな底上げがないところで高い煙突は立たないということをよく考える必要があります。田中さんや小柴さんだって、最初からノーベル賞を取るような研究者になるなんて、誰も思っていなかったのではないでしょうか。教育はそういう目的で行われるものではなかったはずです。その時々に、自分がやるべきことを一生懸命にやってきたことが、結果的に偉大な業績につながってきたわけでしょう。そして、同じように努力していた人が周りにもたくさんいたはずです。全体が底上げされればされるほど、その中からはい上がってくる、伸びてくる子どもが育ってくるのです。国民全体の教育水準の底上げを図っていく、その中でこそ、すばらしいエリートも育っていく。これからの時代は、そういうエリート教育でなければ駄目だと思います。
 この点では、シンガポールには学ぶべきところがあります。シンガポールは日本よりもはるかに能力主義的で、小学校5年生の段階から学力別のトラックに分かれています。しかし、日本のように上ばかりを優遇するのではなく、ボトムクォーターと呼ばれる底辺の生徒が学習意欲をなくしたり、劣等感を持ったりすることがないように、ここを徹底的に重視しています。そして、最善の教育をしようと予算も人手も掛けています。
―日本では生徒の学習意欲の低下が問題になっていますが、どのような原因があるのでしょうか。
 学習に対するモチベーションの低下は、70年代半ばから言われ始めています。これは、高度経済成長期を通して社会が豊かになったことに原因があります。程度の差はあれ、これは豊かな社会には起こり得ることです。また一方では、情報メディアが多様な刺激や娯楽など、学校の勉強よりも魅力のあるものを提供しているという点も指摘できます。さらに、消費生活も多様化して豊かになっています。消耗品をどんどん消費しているわけですが、そういう消費社会における文化的部分の歪みが、もう一方でモチベーションの低下や学習意欲の低下に拍車を掛けてきたのだと思います。しかし、こういった問題は学校の在り方ではなく、むしろ社会の問題です。また、先程述べた子どもを甘やかせる風潮にも原因があると思います。
 
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