ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
生徒の多面的把握が指導を変える
高田正規
ベネッセ教育総研所長
高田正規
Takata Masanori
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Chapter 2
生徒資質のさらなる把握に向けて
 Chapter1では、全国の先進事例校の取り組みを紹介しつつ、主として「どのような手法」を用いて「どのような体制」で取り組みを行うかという視点について考察してきた。
 Chapter2では、さらに考察を深め、生徒の実態把握においてどのような項目に着目すべきかを検証したい。ベネッセ教育総研のデータに基づき、所長の高田が報告する。
四つの不安
 人間は四つの不安と対峙(たいじ)しながら生きていると言われている。青少年の「不安」について調査したレポートが最近相次いで公表されているが、文部科学省の「児童生徒の心の健康と生活習慣に関する調査報告書」(02年刊)によると、「何をやってもうまくいかない」といった能力不安(自信がない)を抱えている生徒が中学生で急増し、中・高校生で12%前後に達しているとしている。
 全国高等学校PTA連合会(以下高P連と略称)の「子どもの心を育む家庭教育の充実」(02年刊)によると、将来の進路(生き方)選択にかかわる意味不安は、男女共に75%に達しており、大人にテイクオフしようとする時期に避けられない解決課題となっていることを示している。
 また、成績や学力にかかわる能力不安は、60%弱の高校生が自己実現を目指すために克服しなければならない要件の一つだと捉えている。対人関係不安身体不安(とりわけ健康)は相対的に低いレベルにとどまっている。
 ベネッセ教育総研の調査結果を整理した図1によると、「何かを決めるとき迷う」生徒は肯定率で91%に達していることが注目される。次いで成績や学力にかかわる能力不安が肯定率で73%に達し、学習に対する自信のなさが自分の将来に明るい展望を描きにくくし、進路選択に「迷い」を発生させている一つの要因ではないかと思われる。
 進路選択―「何をしたいのか」とか「何かを決めること」とかについて迷うこと自体が成長のプロセスなのであるが、「迷い」の解決―言い換えると自己限定をいつまでも先延ばしにすることはできないのである。
 高P連の調査によると、対人関係不安は友人、教師との関連がそれぞれ30%、35%の生徒が「そうだ」としているが、高校生は他者評価を気にしており、図1では「自分の悪口を言っているのではないか」といった問い掛けに対しての肯定率は69%に達しているのである。
 中・高校生は、自己主張(表現)ができる点で優れた資質を持っている(そうでないとする意見もあるが、自己主張する場を与えていないからではないだろうか)。しかし、他者評価、特に友人の評価を気にする傾向が強いため、自己主張したいのに友人の評価が気になって自己主張しにくい心理的葛藤の中で生活しているのであろう。
図1
 
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