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生徒の多面的把握が指導を変える
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子どもの「心」と大人の「心」
 新教育課程がスタートし1学期を終えた02年9~10月、中学校の先生方にアンケートを取ったところ、「子どもの学力低下が起こる」と予測する回答が87%、「子どもたちの学力格差が大きくなる」と予測する回答が86%に達した(ベネッセ教育総研「第3回学習指導基本調査」((03年刊))より)。
 数年前から学力下位層の固定化現象―国・数・英揃って不振で得意科目を持てない―が顕著になったことが指摘されていたが、新教育課程の実施によって「できない生徒が益々できなくなるのではないか」という危惧が急速に広がっていることを教えてくれた。
 生徒の「学び」に対する関心や意欲が「変だ」、学びの行動に移れない、あるいは自分の感情や考えを言葉にできない生徒が増えたという話は、96年前後から耳にするようになったが、最近はさらに「自立できない子どもたちが増えた」という話を進学重点校でも聞くようになった。
 このような生徒気質の変化を高校現場が放置するはずがない。
 数年前から「生活・学習実態調査」「生徒意識調査」など呼称は様々だが、生徒の多面的把握(小社の言うプロフィール型調査)を試み、経年変化の観察に基づく対応策の展開を試みる高校が急増した背景には、教師の常識(大人の「心」)の枠を飛び越える形で生徒気質の変化が展開されたからだと言える。
 長崎県教育センターの「社会性・規範意識に関する調査研究報告」(02年刊)によると、中・高校生に対して「どんな生き方がしたいか」という一連の問い掛けに対して、「その日を楽しく生きる」が中2で39%、高2で32%に達したとしている。これに対し保護者は3.9%、教師は2.3%が肯定しているにすぎず、「知識や教養を身に付け、精神的に豊かに生きる」を約50%の大人(保護者・教師)は選択している。子どもの「享楽主義」と「大人主義」の際立った対照性は、子どもの「心」と大人の「心」との間に極めて大きなギャップがあることを示している。
 高校現場で実践されている生徒の多面的な把握の手法についてはChapter1で紹介したが、その中で注目されるキーワードを抽出すると「自学自習」「耐性(対処性)」「学ぶ手法(学習方略)」などがあり、生徒を学習行動にどういざなうかが教育課題になっていることがうかがえる。
 さらに個人面談を軸とした生徒把握も、単に面談を繰り返すのではなく、教科・クラス担任会、成績分析会、学年集会など体系化された指導・育成の流れ(シークエンスやシステム)との連結を図ることで「学校不適応」―居場所がないと感じる生徒(図1によると肯定率で約60%に達している)―に対応するといった取り組みが展開されている。
 このような指導事例は生徒の「心」をつかみ、教師の意識とのギャップを克服し、自律的に「学び」に向かう生徒を育てるという点で共通したねらいを持っているのであろう。
 
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