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日本の未来を切り拓く人材とは
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【2】 産業界の未来と求められる人材像
産業界再生のヒントは日本で唯一元気な製造業自動車産業にある
 しかし、私は日本の産業界の未来が暗いとは思っていません。日本はもう退路がないところまで追い詰められていますから、企業も改革に必死になっています。社会も個人も何が必要なのか分かってきたと思います。
 産業の活力を取り戻すポイントとなるのは、やはり「価値創造」ですね。日本の主要な産業界の中で、抜きん出て元気な自動車産業がモデルになると思います。自動車産業はここ数年、北米市場で着実にシェアを伸ばしています。地球温暖化問題が深刻になる中で、自動車産業では技術革新が不可避ですが、ハイブリッドカーや水素を使用した燃料電池車の開発では、日本のメーカーが最先端をいっています。
 先に挙げた「プロジェクトX」の事例を見るまでもなく、何か技術的な問題に直面したときに、それを乗り越えていくための問題解決力については、日本の企業はまだまだ高い能力を有しています。環境問題やエネルギー問題は、世界共通の課題です。環境やエネルギーをキーにした技術革新を成功させれば、日本の産業・企業は新しい価値を創造できるわけです。


環境への適応力や発想を普遍化する力が求められる時代
 では、技術革新がある程度行き着き、労賃の安い途上国との競争に耐えられない産業はどうすればよいか。難しい課題ですが、ハードと一緒にソフト、あるいはサービス機能を包み込んだ事業の広がりが考えられます。例えば携帯電話の場合、一緒に提供されているコンテンツや機能の魅力で売り上げを伸ばしました。新しい利用方法を提案できるかどうかが、勝敗を分けると言えます。
 価値創造が求められる時代には、当然価値創造できる人材が不可欠です。私はこれからの世代に必要な資質として、次の三つを挙げます。
1. 環境への適応力がある
2. 物事を本質から考え、それをきちんと表現できる
3. 自分の考え・発想を概念化、普遍化できる

 まず「環境への適応力」ですが、価値創造のためには、与えられた仕事をこなすだけではなく、自分で課題を見定め、それに取り組んでいくことが欠かせません。そのためには「基本を教わる」ことは大切ですが、「自ら課題を決めて学びにいく」ことはもっと重要です。必要を予感したら工学を学んだ人でも就職後にマーケティングの勉強をし、さらに企業経営についても研究するという風に、自分の目標達成に必要な能力は自分で付けるしたたかさが大切です。高学歴プロフェッショナル階層について言えば、一生を同じ企業で勤め上げることは珍しくなり、産業界の環境変化と自分の能力・キャリアに応じた転職が一層盛んになるでしょう。
 またビジネスの国際化が進んでいます。日本企業の役員・社員に外国籍の人が入るようになり、英語でコミュニケーションする場面も増えるでしょう。海外勤務もごく普通のことになります。今後、海外勤務を敬遠することは、国内転勤を嫌がることと同じ意味になるでしょう。いずれも、語学の問題というより、異文化の中に臆せず入り込み、仕事ができるという適応力、前向きさの問題と言えます。
 
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