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2001年4月、浜松南高校の位置する静岡県西部地区では、地域の教育環境にある変化が起きようとしていた。同一学区に位置する浜松西高校が、02年度4月から、県内の公立高校としては初の中高一貫制の導入に踏み切ることを発表、同時にこれに刺激を受けた複数の私立高校が中等部の設立に向けて動き出したのである。進路指導課課長の水野貴先生は、その時の衝撃を次のように振り返る。
「中高一貫制を導入する高校が近くにできることで、本校に対する地域の評価が大きく変わるのではないかと考えました。『このまま手をこまねいていてはダメだ』という危機感が校内に充満しましたね」
しかも、同校の教師たちは、当時もう一つの課題に直面していた。それは、生徒の気質変化が著しく、従来の指導スタイルが有効性を失いつつあったという現実だ。
「本校はいわゆるトップ校ではありません。そこで、生徒に対し、教師ができる限り手を掛けた指導をすることで、学力を伸ばしてきました。しかしここ数年、従来ならば着実に伸びていたはずの生徒の学力が、逆に指導をすればするほど低下するようになってきたのです」(水野先生)
学校の内部・外部両方の変化を受けて、同校では、02年度入学生を対象とした指導改革が議論され始めた。議論を中心的にリードしたのは新1学年の学年団と水野先生を中心とする進路指導課。「この学年から学校を変える」という決意の下、日夜白熱した議論が繰り返された。
半年あまりの
議論の末に教師たちがたどり着いたのは、「変わりつつある生徒の気質をリアルタイムで把握する手法を確立し、常に現在進行形で指導改革を進めていく」という結論だった。そして、生徒把握のための中心的な取り組みとして、生徒の学力・学習意識・学習習慣などを同時に把握できる生徒実態調査を導入することを決意。しかも、継続的な生徒把握を行うべく、入学直後の4月と、夏休み明けの9月の年2回実施することにしたのである。学年団のメンバーとして議論に参加した徳増広幸先生は、そのねらいを次のように語る。
「生徒の気質変化を感じていながら、それに十分対処できなかったのは、我々が『生徒を知ったつもり』になっていて、客観的・継続的な生徒把握を怠ってきたのが原因です。生徒は日々変化しているのですから、できるだけ短いスパンで生徒を把握し、変化に応じた指導をその都度検討できるようにすることを目指しました」
02年4月、満を持して第1回目の生徒実態調査が行われた。そして、その結果を見た教師たちは、予想を越えた結果に思わず愕然とした。
「特に問題となったのは、ほとんどの生徒が『中学時代に予習をしたことがない』と回答していたことでした。しかも、『予習の習慣がある』と答えた生徒でも、正しい方法を知っている生徒はほんのわずかだったのです。例えば英語では、『テキストを全文訳す』という生徒はほんの10%程度にすぎず、多くの生徒は『分からない単語を辞書で調べる』というレベルさえクリアできていなかったのです。これではテキストの全文訳を前提に授業をやっても、効果がないのは当たり前です」(水野先生)
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