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環境変化に対する子どもの戸惑いを受け止める
高校生活導入期、生徒はそれまでの人生で経験したことのなかった環境変化に直面する。
授業の進度は中学校と比較にならないくらい速くなり、部活が終わって帰宅する時間も遅くなる。また、初めて電車通学をする生徒にとっては、通学時間が長くなることさえ大きな環境の変化と感じるだろう。実際、帰宅してもなかなか勉強が手につかないということも少なくないはずである。この壁を乗り越え、家庭での学習習慣を身に付けさせることが、この時期の重要な指導ポイントであることは多くの学校で既に意識されている通りである。
しかし、頭ごなしに「勉強しなさい」と言われることほど生徒がプレッシャーに感じることはない。むしろ、この時期の保護者に伝えるべきは、高校入学時の環境変化の大きさを理解し、それに戸惑う子どもの声をしっかり聞くことの大切さである。例えば、生徒が勉強が手につかない状況にあるならば、まずはその苦しみや、戸惑いを黙って聞いてやる。そして、その上で「あのときも大変だったけど頑張ったじゃないか」などと、保護者ならではの視点で生徒をサポートすることの大切さを伝えるのだ。
高校生活導入期の時点では、各クラス担任と言えども生徒一人ひとりの性格や状態を完全に把握できているわけではない。そんな時期だからこそ、保護者のサポートを活用する意義は大きいのである。
親子関係を再構築するチャンスと捉える
一方、この時期は保護者にとって新たな親子関係を構築する時期にも当たっている。特に反抗期が長引き、中学校時代に親子のコミュニケーションが十分取れなかった家庭においては、高校入学時の環境変化が親子関係の再構築に向けたチャンスになり得ることを伝えたい。
高校に入学したとは言え、生徒は親から自立していけるほど大人になったわけではない。環境が変わったことで、その体験を誰かに話したがったり、不安を一人で処理しきれなかったりするシーンの一つや二つはこの時期に必ずぶつかるはずである。そうした時の子どものサインを見逃さず、親子で語り合うチャンスにすることが、この時期に親子のコミュニケーションを深める鍵になるのである。
もし、この時期に十分な親子のコミュニケーションが図られないと、以後の文理選択や大学進学において重大な支障を来たすことになりかねない。間違っても生徒に「保護者に話しても何も聞いてくれない」という意識を持たせないよう、保護者への発信を密にしたい。
進路意識の形成に家庭の役割は大きい
導入期ならではの保護者の役割としては、正しい進路意識の形成を生徒に促すこともまた挙げられるだろう。近年、多くの学校が進路学習に力を入れ、「総合学習」などを通じて積極的な活動を行っているが、進路意識を形成するベースはあくまでも家庭にある。生徒にとって一番身近な社会が、保護者が語って聞かせる職場の様子や人生経験であることは論を待たない。いかに子どもの長所を伸ばし、進路意識を形成させるかは、むしろ家庭の責任においてなされるべきことではないだろうか。
その際に重要なのが、子どもの進路意識をきちんと育てるために、保護者がどのように関与すべきかを伝えることである。「社会問題を扱ったテレビ番組を見て親子で話し合ってみる」「様々な人の生き様や自分の職場体験を語って聞かせる」「突飛な希望を子どもが言ってきたとしても、それを一応は尊重する」など、なるべく具体的な行動指針を伝えることが求められるだろう。
と言うのも、保護者の多くは漠然とであれ、子どもの将来についてある程度の希望を持っている。そのため、「将来について親子で考えることが必要」と漠然とした言葉で伝えた場合、ともすると親の希望を暗黙裏に子どもに強要してしまうことにもつながりかねないからである。実際、私がかつて受け持った親子の中にも、生徒自身は「私の希望です」と言っているにもかかわらず、実は自分の適性・関心とはかけ離れた保護者の希望に押し切られていた生徒が何人かいた。入学前のオリエンテーションでこのような事例を保護者に伝えたり、場合によってはシラバスの中に文章として盛り込むことも一つの手段として考えられるだろう。
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