ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
学校活性化に自己点検・評価を生かす
小松郁夫
国立教育政策研究所
高等教育研究部部長
早稲田大客員教授
小松郁夫
Komatsu Ikuo
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改革の背景
求められる社会的説明責任と
学校「経営」時代の到来

―国立教育政策研究所 高等教育研究部部長 小松郁夫先生に聞く―
 今回「学校設置基準」の改正という形で学校の自己点検・評価が法制化された背景にはどのような社会的要因があるのだろうか。また、自己点検・評価の導入は今後の学校現場にどのような変化をもたらすのだろうか。学校の経営について長年に渡って研究を続けてこられた国立教育政策研究所高等教育研究部部長の小松郁夫先生にお話をうかがった。
学校の個性化と不可分な自己点検・評価
――まず、学校の自己点検・評価が近年クローズアップされるようになった背景について教えてください。
小松
 学校評価が強く求められるようになった背景には、主に二つの要因があります。一つ目は、国民の納税者意識の高まりに伴って、教育にどれだけの予算が使われ、どれだけの成果を上げているかを説明する責任(アカウンタビリティ)が学校に求められるようになってきたこと。二つ目は、教育界内部の動きとして、継続的に学校改善を図るための手法として、自己点検・評価に注目が集まり始めたことです。学校評価を巡っては、マスコミ報道などを通じて、一つ目の政治的・社会的な要因ばかりに注目が集まりがちですが、学校現場では、むしろ二つ目の要因に着目していく必要があるでしょう。
――「学校改善」の手法として自己点検・評価を捉える発想は、海外で生まれたものだと聞いていますが。
小松
 教育現場に自己点検・評価を持ち込む発想は、特にイギリスにおいて発達し、80年代には国家主導で実践に移されました。この動きが当時のOECD主催の国際セミナーなどを通じて、日本の教育界に移入されたのです。しかし、組織や品質の改善に自己点検・評価を生かすという発想自体は、高度成長期にトヨタや松下といった日本企業が生み出したものです。それが海外の経営学者に注目され、学校経営の改善にも応用されるようになったのです。その意味で、学校の自己点検・評価は、本来日本人が得意な分野のはずなのです。
――企業経営における自己点検・評価を世界に先駆けて実践しながら、なぜ日本ではそれを、教育に応用する発想が生まれなかったのでしょうか?
小松
 その問いは日本の学校行政の在り方と合わせて考える必要があるでしょう。まず、ある組織が自己点検・評価を行うためには、点検・評価の対象たるべき『組織のビジョン』が必要ですが、画一的な学校行政が行われてきた日本では、学校が独自のビジョンを打ち出そうにもその余地があまりありませんでした。逆に言えば、学校の自由裁量権を拡大すべく、規制緩和が行われている今だからこそ、自己点検・評価の必要性が叫ばれるようになったのです。
――その意味で、「学校の個性」を打ち出すことと、自己点検・評価には密接な関係があるのですね。
小松
 その通りです。「学校の個性」に基づくビジョンがきちんと実現できているかどうかを確認するためにこそ、自己点検・評価が必要なのです。評価を行う前提として、まずは確固たる学校のビジョンを描くことが、学校現場における最重要課題となるでしょう。
 
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