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外部の目を使ってノウハウ向上を図る「教育研究大会」
「授業公開期間」が、学校内部の目を通して、教科のノウハウを確立するための取り組みだとすれば、毎年秋に、他の高校の教師や教育関係者を招いて行われている「教育研究大会」は、外部の目を通してノウハウを向上させるための取り組みと評価することができよう。この取り組みにおいて中心的な役割を果たしている研究開発部長の奥山誠先生は、その意義を次のように語る。
「『授業公開期間』と同様、『教育研究大会』についても、普段の授業を公開します。テーマは『魅力ある授業の創造をめざして』として、あくまでも普段の授業をより良くするための取り組みとして位置付けています。いくら厳しく授業研究をやろうとしても、校内の人間だけでは限界があります。外部からの刺激を受けることは、活動をより良くしていく上で欠かせないものと考えています」
では、実際に各教科ではどのように「外部の声」を受け止めているのだろうか。例えば理科では次のようなやり取りが行われているという。
「受験学力の育成はもちろん大切なのですが、授業の質を本当に高めていくためには、教科の専門的な深みをどこまで生徒に伝えられるかが重要な課題になります。ですから、『教育研究大会』に向けては、『どこまで深みのある授業ができるか』を常に話し合っています。例えば、本当は座学が中心になりがちな単元でも、あえて実験を行ったり、できるだけ発展的な内容についても扱うようにしています」(川浪先生)
ちなみに同校では、「二兎を追う」という言葉を教科指導上の目標に掲げている。受験学力の育成と、教科における専門的な知識の習得を両立させるという意味だ。だが、概念としてその重要性を知りつつも、それを具体的な指導スタイルに落とし込むのは容易なことではない。「教育研究大会」に向けた各教科の話し合いは、その目線合わせの機会として機能しているわけだ。
「来校者の方から、『本当に普段の授業でもこれだけの内容を扱っているのか』といった質問が出ることもありますから、授業案はあくまでも日常の授業でも実施可能なものを考えています。一過性のイベントで終わっては、教科としてのノウハウを築くことにはつながりませんから」(川浪先生)
「企画部」を設置し取り組みを全校体制化する
以上、ノウハウを交換する場を設置するために、同校がどのような取り組みを行っているかを見てきたが、もちろん、このような取り組みは話し合いの場を設けただけでは完結しない。話し合いの結果がきちんと指導に還元され、指導ノウハウの構築につながってこそ取り組みの成果が見えてくる。そして何より、教師たちが互いの授業に対し、忌憚なく意見を言い合える環境がなければならない。同校の場合、99年に設置された「企画部」が、こうした環境の整備に当たってきた。
「また、企画立案・調整の機関として『企画会議』があります。これは管理職と企画部長、各学年主任などからなる、言わば学校運営のコントロールタワーとして機能する組織です。ここでは、総合学習、授業改革など学校全体の取り組みを考える戦略会議を行います。例えば、授業ノウハウの確立に関しては、各教科に対し、授業の質の改善や、教授法の改革を提言しています。実際、授業改善が必要な教師に、ベテラン教師を付けてチームティーチングを実施するよう教科側に要請したこともありました」(荒瀬校長)
もちろんこのような環境が一朝一夕に実現できたわけではない。そこに至るまでには教師同士が文字通り激論を交しながら、互いに意見を言い合える環境を築いていった過程がある。模試の結果が返ってくる度に行われてきた「模試分析会」こそ、その激論の場であった。
「『模試分析会』の役割は、模試の結果を分析することではありません。分析の上に立って、具体的な対応策を確立することです。もし、課題がある教科があった場合には、該当教科の担当者にも参加してもらいながら、授業改善の具体的な方法を詰めていきました」(荒瀬校長)
特に改革の初年度に当たる99年には、こうした議論が頻繁に行われた。激論の続きが赤提灯にまで持ち越されることも珍しくなかったという。だが、このような取り組みを通じ、「企画会議」の役割が認知されたからこそ、同校ではノウハウの共有に対するコンセンサスが生まれているのだ。荒瀬校長は「教師同士の衝突を恐れていては教科指導のノウハウを共有化することは不可能だ」と断言する。
「個人のノウハウを『教科としてのノウハウ』に高めていくためには、教師が本気でぶつかり合って、互いの認識を共通化していくことが不可欠です。時には、感情的に気まずくなることもありましたが、最初にこのリスクを背負ったことで、教師が互いの授業について、忌憚なく意見を言い合える環境が成立したのです」
模試分析会の運営は、03年度より新たに設置された研究開発部に引き継がれた。教師の意識を共通化する場としての機能が、引き続き期待されている。
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