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新入生の学力変化の実態とその対策
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2.新課程による中学校の変化
学習内容の差の実態
 生徒の学習習慣の変化もさることながら、高校現場に大きな影響を与えているものの一つは、中学校の指導の変化であろう。特に、学習指導要領によって「発展的な学習」に位置付けられた学習内容を、学区内の中学校が授業の中でどのように扱っているかは、高校現場の教科指導を考える上で重要なポイントとなる。
 その鍵を握るのが、大幅に時間枠が拡大された中学校の選択履修教科の中身である。本誌03年4月号「中学校は今」でも報告した通り、「(学習指導要領の範囲内で)教科の補充的学習を行う」「生徒が楽しめる授業を行う」ことに力を入れている中学校が多い一方、「学習指導要領の削減された内容を扱う時間に充てている」という中学校は少数にとどまっているようだ。
 このような現状に照らす限り、高校が期待するであろう新入生の学力水準と、中学校卒業時の学力水準の差は、短期的に見て埋まらないと思われる。つなぎ教材の作成やオリエンテーションの実施といった取り組みを、今後とも継続していく必要があるだろう。


選択履修教科の実態
 では、実際に中学校ではどのような授業が開講されているのであろうか。ここでは福岡県のA中学校の選択履修教科の一部を、資料7として示した。
資料7
 「英語の歌」や「マフラーを作ろう」などの授業は、生徒が楽しめる授業や体験的活動などに充てられていることが分かるが、中には「作文克服」や「文章題マスター」のように、教科の補充的な内容を扱うものや発展的な学習を意図した授業もある。
 ここで注目すべきは、同じA中学校の生徒が、これらの中から履修する科目を自由に選択できるという事実である。新課程に入り、中学校間格差の拡大が問題となっているが、同時に同じ中学校の卒業生といえども、同じ学習履歴を持っているとは限らないのである。
 実際に、新課程を迎え、4月に今までと同じ一斉授業が行えない、といった深刻な問題に直面した高校も少なくないのではないだろうか。学区内の中学校がどのような指導を行っているのか、今後とも各校が注視していくことが求められる。


中学校教師も感じる新課程への疑問
 中学校の新学習指導要領に対し、疑問を感じる高校教師は少なくないが、肝心の中学校教師はどのように考えているのだろうか。高校現場の関心が高いと思われる「学校による指導力格差」「教育内容」「年間授業時数」「見直しの必要性」の4項目について調査したのが資料8である。
資料8
 まず学校による指導力格差については、実に83・7%もの中学校教師が「格差が大きくなる」と回答している。「格差が小さくなる」と回答した割合は14・7%に過ぎず、中学校教師自身が、学校間格差の拡大に対し、疑問を呈していることがうかがえる。
 また、教育内容についても、「もっと精選した方が良い」の27・4%に対し「削減しすぎている」と答えた中学校教師が71・7%に、さらに、年間授業時数についても「全体として十分」の30・9%に対し「不足している」との回答が68・5%に上っている。そして、最後の質問である「新学習指導要領の見直しの必要性」については、実に82・4%が「根本的な見直しが必要」と感じていることが明らかになった。
 以上のようなデータから、実際には多くの中学校教師が高校教師と同じく、新学習指導要領に対して問題を感じていることが分かる。現在、中高連携を図る取り組みが各地で進められているが、少なくとも新課程に対する「問題意識の共有」という側面については、温度差が小さくなりつつあるのではないだろうか。
 以上、近年の新入生について特徴的と思われるデータを基に、学習習慣、中学校の指導という側面から概説したが、かなりの変化が見られるようになってきていると言えるだろう。では、各教科の学力についてはどのような変化が見られるのであろうか。次ページから英数国の3教科について詳細に検討したい。
データ出典
 
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