ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
新入生の学力変化の実態とその対策
松本健
富山県立富山中部高校教諭
松本健
Matsumoto Takeshi
教職歴23年目。同校に赴任して5年目。「『表面的に生徒を見ないこと』を常に心掛けています」

正村泉一
石川県立金沢二水高校教諭
正村泉一
Shomura Senichi
教職歴17年目。同校に赴任して10年目。「日々進歩する生徒に負けないよう、私も進歩していこうと思います」
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座談会
学力変化とその対応
学習方法や学習習慣の面で変化が見られた新入生。各教科の学力についてはどのような変化が見られたのだろうか。学力変化の内容と今後の対応について、先生方に話し合っていただいた(司会は進研模試各教科の編集責任者が担当。英語・尾澤章浩、数学・新垣宏、国語・福本茂樹)。
英 語
文法指導・辞書指導の見直しを
――新入生については「コミュニケーション能力は向上したものの、文法知識や長文読解力は弱くなった」と言われているようです。今回のデータでも、会話技能に関連する単語や成句の正答率は上がっているようです(資料1)。
資料1
正村 オーラルコミュニケーションの授業などでも意欲の面ではかなり向上していると思います。音読やペアワークなどに対する抵抗感もほとんどないようです。ただし、文法に関しては明らかに弱くなっていますね。英語Iの授業で日本語訳などをさせてみると、大意としては合っているものの、文法的な裏付けが弱い生徒が多く見られます。
松本 文法的な面に関しては私も同感です。しかし、彼らが全く文法を知らないかと言えばそうではありません。文法用語は知らなくとも、「場面に応じた言語の働き」という形で知識を習得しているのです。授業の中では、そういった個別の知識を「文法」という体系的なシステムの中で理解させるよう努めています。一度説明したときの吸収力自体は、以前と変わっていないと感じています。
――学習に対する姿勢の面では変化は見られるでしょうか。
正村 驚いているのは、辞書を使って学習する生徒が極端に少ないことです。私が受け持つクラスで聞いてみたところ、40人中、中学校時代に辞書を使って勉強をしていた生徒は5、6人くらいしかいませんでした。これでは授業が成立しませんから、今年度は教科書に入る前に、まず辞書指導から授業を始めました。
松本 辞書の活用に加えて私が気掛かりなのは、単語のスペルや構文を「書いて覚える」という勉強法をあまりしてきていないことですね。中学校段階では覚えることも少なく、それでも十分通用したかも知れませんが、高校段階ではどうしても「手を動かして頭に入れる」という地道な学習方法が必要です。二学期からは、単語集や文例集の小テストを実施して、この学習方法を身に付けさせたいと考えています。


今後も続く授業方法の試行錯誤
――文法理解度の低下についてはデータからも読み取れると思います(資料2)。この点について、実際に授業で工夫されているポイントなどはありますか。
資料2
正村 授業の中では、一つひとつの文章を文法的な裏付けも含めて、しっかりと理解させていくようにしています。例えば、例文の訳出をさせて大意が合っていた生徒がいても、逐一「なぜそう訳したのか」を説明させています。そうすると、しどろもどろになってしまう生徒が必ずいますから、そこで「文法的にはこうだよ」という説明を入れるわけです。
松本 本校でもそうした指導を心掛けています。しかし、「コミュニケーション重視」という風潮の中で、そうした指導方法が軽んじられているのは、正確な意思の疎通という面から見て残念ですよね。
正村 英語の指導方法には主に二つの方法があると思います。一つは「速読中心の授業で量をこなして英語に慣れさせていく」というやり方、もう一つは従来のように「一つひとつの文章を文法・構文・語彙を押さえながら英語力を付けていく」というやり方です。コミュニケーション力を育てたいなら、本当は前者を重点的に行う方がよいのかも知れません。しかし、大学入試と授業時間数との兼ね合いがあるのも事実です。二つの方法のバランスをうまく調整しながら、今後の授業方法を模索していく必要があると思います。
――どちらの方法を重視するかは学校の状況によっても変わってきますよね。今後数年間は全国的に試行錯誤が続くのではないでしょうか。


「自ら考える」要素を取り入れる
――では、そうした問題意識を踏まえて、英語科として取り組んでいることはありますか。
松本 本校では課題の出し方を工夫しています。どうしても学校の授業が説明中心の進め方になってしまいますから、なかなか量をこなす指導が行えません。そこで、従来から与えていたサブリーダーを週末課題などとして読み進めるようにし、冊数も増やしました。もちろん、渡し切りでは効果が薄いので、内容に関する課題を毎週提出させて、きちんとこなしているかチェックするようにしています。
正村 今年、私は文法の教え方を変えました。今の新入生に、いきなりSVOCを持ってきてもハードルが高いので、まず前期は中学校でも習っている時制から入り、文型はその後に回すようにしたのです。また、「第一文型は~という文のことで」と従来のように「形式」の説明から入るのではなく、まず多様な例文の意味を辞書で十分に調べさせた上で、動詞とその後に続くフレーズの「機能」を考えさせるようにしました。そして、生徒が自分なりに文章の構造を把握した後に初めて、「こういう文章を第一文型と言うんだ」と教えるようにしました。言わば「文法という概念にたどり着かせる」指導方法に変えたのです。
――「自ら考える」要素を取り入れることで、文法を考えやすくするわけですね。単に暗記を求めるのではなく、探求心を持って取り組ませることは、新入生の指導を考える上で、他の指導領域でも重要になってくるのではないでしょうか。
 
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