ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
新入生の学力変化の実態とその対策
古谷修一
山口県立萩高校教諭
古谷修一
Furutani Syuichi
教職歴23年目。同校に赴任して3年目。進路指導課長。「『明るく楽しく数学しよう』をモットーにしています」

小林三高
島根県立松江東高校教諭
小林三高
Kobayashi Mitsutaka
教職歴18年目。同校に赴任して8年目。1学年主任。「自分の意見をしっかり伝えられる生徒を育てたい」
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数 学
基礎的な計算力の低下にどう対処するか
――数学に関して先生方からよくお聞きするのは、「分野別の得意・不得意以前に、計算力そのものの低下が見られる」というご意見です。今回のデータ(資料1)でもそうした傾向が出ているようです。
資料1
小林 6年前、今で言う旧課程へ移行した際にも感じていましたが、新課程になり、計算力の低下がまた一段と進んだように思います。特に分数の約分、因数分解、小数の計算といった基礎的な計算力の低下は著しいように思います。
古谷 同感です。今回のデータでは成績下位層の正答率の低下が目立っていますが、私の実感では、学力の高い生徒にも共通の傾向だと思います。「」のような問題を解かせると、cの部分にbを乗算し忘れてしまう生徒が少なくありません。数式を一つのまとまりとして捉える能力が低下しているように思います。
小林 数に対するセンスは、やはりある程度「量」をこなさないと身に付かないと思うんです。そうした意味では中学校の指導スタイルの変化が非常に大きく影響していると思います。いわゆる「ドリル演習」的な指導がかなり減少していますから。
――しかし、高校の授業の中で、生徒のノートをきっちり添削したり、「ドリル演習」的な指導を行うのは難しいのではないでしょうか。
古谷 そうですね。いかに「計算する経験」を積ませられるかが授業でも家庭学習でも問われていると思います。私の場合、例えば授業では、以前ならすべて板書していたような例題を、計算の途中から生徒に解かせたりしています。また、家庭学習についても、一度に多くの課題を出すのをやめ、毎日少しずつ、基礎的な問題をこまめにこなさせる方針に変えました。少しずつでも反復練習をして、計算する経験を積ませた方が計算力は伸びますし、その方が、こまめに生徒の計算過程をチェックすることができますから。
小林 本校はSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定されていることもあって、理科の教師と共同でこの問題に対処しています。分数、小数、指数、比例の4つの分野について、「分数の約分」「括弧で括る」といった作業をできるだけ取り入れたプリントを共同作成すると共に、それぞれの持ち時間の中から各1時間ずつ割いて、このプリントを解くための時間を設けました。
――限られた授業時間の中で計算力を付けるためには、教科を越えた協力が必要なのかも知れませんね。


確率の正答率が上がる一方問題読解力は低下
――計算力の低下、という問題がある一方で、確率分野では正答率が向上しています(資料2)。これについてはどうお考えですか。
資料2
古谷 中学校の指導順の影響が大きいのではないでしょうか。旧課程で確率を扱うのは中3でしたが、新入生の場合、移行期ということもあって、1年前倒しの中2で学んでいます。練習問題をしっかり解く時間があったかどうかが、成績に反映されたのではないでしょうか。
小林 確率といっても中学校まではすべての場合を書き出して、答えを見つけるという「視覚的判断」の要素が大きいと思います。しかも、中学校の指導では、日常生活の中で目にする現象の中から、数学的法則性を見つける指導が主流になりつつあります。その意味で、パターンを具体的に数え上げることのできる問題は、新入生にとっては取り組みやすかったのではないかと思います。
――しかし、高校では同じ確率を扱うにしてもC(コンビネーション)を使うなど、より抽象度の高い方法論を教えていくことになります。その辺りはどうお考えでしょうか。
小林 新しい概念に対する食い付き自体は、以前に比べてかなり良くなっていると思います。この点は、「数学的なものの見方の面白さや奥深さ」を伝えることを重視した中学校の指導の良い面が出ていると思います。もっとも、実際に例題を解かせてみると、計算力で苦戦している生徒が多いのですが。
古谷 そうですね。概念自体に興味を示せても、微分・積分といった計算量の多い分野はやはり心配ですね。
小林 ですから、新入生の指導においては、彼らの良さをうまく引き出せるような授業方法の模索も必要だと思うんです。実は先日、教科書の例題を解く際にグループワークを取り入れてみました。「今まで習ったことを使って、この例題の解き方を考えてごらん」という風に。そうしたら非常に授業が盛り上がりました。
古谷 間違いを恐れず、色々試みることに積極的な点は、ここ数年の新入生の良い所ですよね。だからこそ、授業の中で、生徒に考えさせる部分を増やしていっても、それほど抵抗なく入ることができるのだと思います。しかし、その一方で、「考える能力」そのものが上がったかと言えば、必ずしもそうとは言えないのではないでしょうか。授業の中でも、文章題、証明問題を苦手とする生徒が増えてきているように感じています。
――文章題を苦手とする生徒が増加傾向にあることはデータからも読み取れます(資料3)。新しい考え方に興味を示せることと、実際に題意を読み解く力があるかどうかの間にはギャップがあるようですね。
資料3
古谷 だからこそ、考える機会をただ与えるだけでは新入生の学力を伸ばすことは難しいと思います。むしろ、それと同時に、自ら考える能力、問題を読解する能力をしっかり身に付けさせる授業こそ、今後は求められるのだと思います。
小林 問題読解力や思考力を付けさせるには、国語科の指導や、「総合的な学習の時間」との連携も改めて見直さなければならないでしょうね。
 
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