ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
新入生の学力変化の実態とその対策
白澤満
岩手県立宮古高校教諭
白澤満
Shirasawa Mitsuru
教職歴22年目。同校に赴任して1年目。「『声の出る授業』が目標。全力で生徒と向き合いたい」

菅原研
岩手県立盛岡第三高校教諭
菅原研
Sugawara Ken
教職歴14年目。同校に赴任して4年。「貪欲に学びに向かえる、良い意味で欲張りな生徒を育てたい」
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国 語
語彙習得の方法が受け身化する傾向に
――新入生の学力について、現代文、古文の順にうかがっていきたいと思います。まず、全国的な傾向として現代文における語彙力の低下が挙げられます。弊社のデータ(資料1)でも、その傾向が裏付けられているようです。この問題は文章読解力や、随筆・小説を鑑賞する力の低下とも密接に関連していると思われます。
資料1
白澤 データは外来語ですが、日本語も含めた抽象表現全般について弱くなっているように思います。従来なら、学力のあまり高くない生徒にそうした傾向が目立っていたのですが、今では学年でトップクラスの成績を取るような生徒が、基礎的な語彙を知らなかったりすることも珍しくありません。
菅原 私も同感です。しかし、それ以上に問題だと思うのは、多くの生徒が「語彙は学校の授業で教えてもらうもの」という意識を持っていることです。先日の模擬試験で「アイデンティティ」という言葉の意味を問う出題があったのですが、「習ってないんだから分からない」と言う生徒がかなり見られました。
白澤 語彙習得の方法そのものが変わってきているように感じます。以前なら、テレビや新聞のニュースを見る中で、自然に抽象的な語彙を身に付けていましたが、どうも学校で「覚えろ」と言われないと覚えない生徒が増えてきているようです。
――その背景にあるのは読書量の低下でしょうか。
菅原 読書量そのものに関しては、読む生徒は相変わらずかなりの量を読んでいます。むしろ、問題なのは読書量ではなくて質の方ではないでしょうか。自称「読書好き」の生徒にどんな本を読んでいるのか聞いてみると、アニメのノベライズ本だったりする場合が少なくありません。
白澤 そういう本で使われているのは日常会話で使うような語彙ですから、抽象的な語彙に対する知識を増やすことにはつながりませんよね。
――では、そうした生徒に語彙力を付けるにはどのような指導が考えられるのでしょうか。
菅原 前任校では一定の時間を割いて、基礎的な語彙を解説する時間を設けていました。しかし、進学校となるとなかなかそうした時間を設けるのは難しいですね。実際には、語彙力を養うのに適した教材を教師が精選した上で、読ませる指導がメインになると思います。
白澤 一冊の本をそのまま「課題図書」として渡しても、なかなか生徒が読まないという問題もあります。私の場合、図書の内容をB4判に要約したり、図書紹介に内容を一部抜き出して付け加えたものを、生徒に読ませるようにしています。本当は量をこなしてほしいのですが、現実的にそれが厳しい以上、5分でも10分でも、できるだけ活字に触れる時間をつくっていくことが大切だと思います。
菅原 本校でも国語科で足並みを揃えて同様の取り組みをしています。また、小論文指導にも使えるように、題材を精選しています。現代文では語彙の習得と読解力の育成は切り離せませんから。


暗唱指導が与える古文・漢文への影響
――話題を古文・漢文に移したいと思います。この分野では基礎的な語彙力や、文法力の低下が指摘できると思います(資料2、3)。
資料2、3
白澤 指導の入口の部分で、中学校の指導の変化の影響を感じています。以前なら、中学校でも「平家物語」や「枕草子」といった代表的な作品の暗唱をしていました。細かな文法などは教わっていなくとも、音読を通じて古典に慣れ親しんできたことが、高校の指導のベースになっていたわけです。しかし、今年の1年生に聞いてみたところ、暗唱をしたという生徒はあまりいませんでした。古典を「とりあえずは読む」ということで手一杯なのかも知れません。
菅原 指導方法として暗唱を入れていないことは、「暗記すること」に対する耐性のなさにもつながっていると思います。古文・漢文の場合、ある水準まで文法事項を理解して初めて、一定レベルの読解が可能になります。ですから、ある程度理解し始めるまでは、「分からないけれど覚える」という学習方法がどうしても必要になるのです。しかし、暗記に対する耐性がないために、多くの生徒がちょっと分からないだけで古典嫌いになってしまうんですよ。この壁を乗り越えることが大きな課題になっています。
白澤 私も同感です。本校では、文法事項でも用言の活用などは後回しにして抵抗感を取り除き、まず「読める」という実感を生徒に持たせるようにしています。最初のうちは「文末に『む』が出てきたら『だろう』と訳しなさい。『けり』が出てきたら『た』と訳しなさい」という具合に、助動詞の分類に従って意味を教えておいて、作品読解を進めます。そして、そういうレベルでは訳せない例文が出てきて初めて、「助動詞には様々な意味があるんだよ」と、詳しい文法に入るわけです。用言の指導は六月末くらいからですね。
菅原 とにかく読ませる中で抵抗感を取り除いて、後付け的に文法をくっつける、というわけですね。しかし、指導方法の改革というのは他教科と足並みを揃えて、初めて効果が出るものです。国語科だけが率先して導入期の負荷を下げていくような指導を行えば、バランスよく多教科を学習するスタイルを、生徒が身に付けることができません。国語科の指導方法の改善と教科間調整は、今後不可分の関係になるでしょうね。
――授業方法を変えるにしても、他教科と歩調を合わせた対応が必要になってくるわけですね。
データ出典
 
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