ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
高校生が主体的に語る21世紀の教育像
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フォーラムで見えてきた高校生の教育への思い
 03年度の参加校は、開催校である鳥取県立倉吉東高校の他、長野県松本深志高校、静岡県立浜松北高校、島根県立松江北高校、福岡県立修猷館高校、鹿児島県立甲南高校、そして韓国から京畿道安養(アニャン)高校。「環境」をテーマに積極的な提言が行われた第1回と同じ顔触れだ。
 今回のテーマは、識者の間でも議論百出の「教育」とあって、関係者の多くが「高校生が教育について、どこまで具体的な提言ができるか」という点に、一抹の不安を覚えていた。しかし、各校のプレゼンテーションが進むに連れ、そうした不安が杞憂であったことを、関係者一同が感じたに違いない。緻密な調査と大胆な発想により、すべての高校が具体的に新しい教育の在り方を提示し得たからだ。各校の発表が終わる度に、会場は盛大な拍手で包まれた。
 今回の高校生フォーラムの収穫は、現在の教育に足りないものは何か、教育に期待するものは何かという点について、高校生の思いの一端を垣間見ることができたことだ。各校とも様々な切り口から具体的な提言を導き出したが、その論旨は大よそ「学校(制度)の変革」と「生徒自身の変革」の二つに分けることができるだろう。以下、この二つの面から、代表的な発表をいくつか紹介していきたい。


「二つの学校」「競争」…学校制度の改革を提言
 「学校の変革」を主張した高校の中で、最も大胆な提言を行い観衆の耳目を集めたのが松江北高校の「360度の視野!! 地球規模の理解力!! 無限大の心!!!」だった。同校の発想の根底にあったのは、「将来、自分たちはどのような人間でありたいか」という問題意識である。そして、その具体像を「21世紀人」として、次のように定義した。 
(1)考える力を身に付けた人間
(2)他者や異文化を受容できる人間
 こうした人間を育成するためにはどのような教育が必要なのか、これが同校の提言の出発点となった。
 そして導き出された結論は、現在の6・3・3制を解体し、「知識の学校」と「心の学校」を創設するというもの。前者は、前述の定義(1)を具現化するもので、一定レベルの学力習得を目的とした学校、後者は、定義(2)の達成を目指す、豊かな心を養うための学校である。そして、子どもたちはこの二つの学校に通い、それぞれの学校で単位を取得するのだ。
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松江北高校は「二つの学校」を提言。プレゼン用ソフトを効果的に用いて、説得力のある発表を行った。
 「知識の学校」は、大学の入門的な内容までを義務教育とすることで、在学中に自分の適性を見極めた上で進路選択ができるようにする。そうすることで、大学進学後に起こる学部ミスマッチをなくす。さらに、単位取得のための試験を年に複数回設けて進級を難しくすることで、確かな学力を身に付けさせることができるという。一方「心の学校」では、年齢の壁を越えた縦割りクラスにより、様々な年代の人との触れ合いを通して、多様な価値観、他者を受け入れる心を養う。ここで学ぶのは芸術や体育、家庭科といった教科と、総合的な学習の時間、平和教育、人権教育など。これにより、21世紀に必要とされる共存・共生の心を育むのである。
 松江北高校の提言は、なおざりにされがちな「心」の問題を「知識」と同等のものとして位置付けた点で、大学受験を目前に控えた高校生の主張としてはかえって新鮮味が感じられた。そして何よりも、戦前から現在までの教育制度の変遷を追いながら、矛盾や不十分な点を検証し、制度改革という提言に結び付けたところに努力の跡がうかがえた。
 修猷館高校も松江北高校と同様、「将来なりたい自分」という点に着目した。すなわち、現在の教育では学問の楽しさが生徒に伝わらず、高校生が将来の目標を持てなくなっているのではないかという問題意識から出発したのである。
 同校では学校間と生徒間の二つの「競争」を提言。学校間の「競争」は、学校の学力レベルと独自性を競わせる。そのために学区制の緩和、学校評議員制度の普及、全国一斉学力テストの導入の必要性を説いた。生徒間の「競争」では学力を競わせ、少人数制学級と習熟度別授業の拡大を図る。
 同校の述べる「競争」とはあくまで「向上心を刺激し合うこと」である。「生徒一人ひとりがお互いを高め合うことが、高校時代の真の学びである」という結論からは、理想を求める清新な若者の姿が感じられた。
図1
 
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