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(財)岐阜県研究開発財団
サイエンスワールド館長 |
飯尾正和
Iio Masakazu
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教職歴36年。「先生方には生徒に信頼される魅力的な指導者になってほしいですね」 |
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岐阜県立長良高校校長 |
平野恒彦
Hirano Tsunehiko
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教職歴34年目。同校に赴任して1年目。「高い学力と大きな夢、豊かな人間性を持った生徒を育てたいですね」 |
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三重県立神戸高校校長 |
中条政紀
Chujo Masanori
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教職歴37年目。同校に赴任して1年目。「『継続は力なり』。生徒には諦めず、熱い思いを持ち続けてほしい」 |
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座談会
指導力向上を可能にする学校運営 |
近年、生徒の気質変化や教師の異動サイクルの短期化など、高校現場を取り巻く環境は厳しさを増している。そうした中、長年自校で培ってきた指導ノウハウを継承し、環境変化に柔軟に対応できる組織体制を構築するにはどのようにすればよいのだろうか。
中部圏で指導的な立場におられる3名の先生方に、学校の組織化と指導ノウハウの共有・継承の基本スタンスについて語っていただいた。 |
組織を一体化するには明確なビジョンが必要 |
――まず組織力や指導力強化の重要性、そのために必要な視点や手法について、管理職として組織を束ねるお立場からお話をうかがいます。
飯尾 私は現在、学校現場を離れて、岐阜県先端科学技術体験センター・サイエンスワールドに初代館長として勤務しています。開館当時に職員から求められたのは、館長として明確なビジョンを示してほしいということでした。これはセンターも学校も同じで、ビジョンがない限り組織は動きようがありません。高校で言えば、校長が全体の方向性を明らかにし、それに沿って個々の分掌も指導方針を打ち出す。そして各々の先生は、その方針に納得して日々の教育活動を行う。組織を一体化させるためには、まず方針を揺るぎのないものにする必要があります。
平野 しかし一方で、管理職も含め、教師の異動サイクルが短期化しているということも課題ですね。岐阜県の場合、管理職は2年から3年で勤務校が替わります。そうすると校長は、在任中に何か新しい成果を上げなければと考え、その学校が置かれている状況にそぐわない指導方針を打ち出してしまうこともあります。そうすると、校長が替わる度に新しい方針が掲げられることになり、組織を一つの方向に向かわせることが難しくなってしまいます。
成果を上げることも大切ですが、まずは、その学校が築いてきた伝統や現在の課題を分析することから始めるべきです。その中で、良いものを受け継ぎながら、抱えている課題を解決するため、整合性と独自性のある指導方針を打ち出していくことが大事だと思います。
中条 私は組織を一つの方向へと束ねていくには、地域の声も大きな力を持つと考えています。
本校では学校評議員やPTAの方に学校の経営方針、教育内容を説明し、「学習環境をどのように整えるか」「こんな学校にしてほしい」など、いろいろな意見・提言を頂き、それを学校運営に生かしています。さらに、方針がきちんと実行されているか外部評価によって精査するなど、開かれた学校づくりに努めています。そうすることで、本校に何が求められているのか地域のニーズが明確になるのです。
一方、地域からの要望に応えるために、各分掌で学習時間やセンター試験受験者数などの具体的な目標数値を設定し、実現できたかどうかを検討する自己評価も導入するようにしています。外部評価と自己評価は、学校のビジョンや方向性を明確化する上で必要ですし、組織力を高めていくための指針としても欠かせないと思います。
平野 学校内の教師同士による意識啓発も重要ですね。そもそも組織の一体化や、ノウハウの共有・継承のベースとなっているのは、教師同士のコミュニケーションです。コミュニケーションが濃いほど、組織が一体化され、ノウハウの共有・継承は円滑に進みます。特に、学校では他の先生のやっていることに口出ししにくいという雰囲気がありますね。そこを解決していかなければ、組織力や指導力の向上は望めません。
そこで、一つの起爆剤にしたいと考えているのが授業研究です。20代の先生がいない本校に若い先生を複数配置し、その授業を公開して同じ教科の先生が見学し、終了後にお互いに意見を言い合える機会をつくろうと思います。自然とお互いのノウハウが共有され、組織としての一体感が醸成されていくでしょう。
ただし、そのときに先輩教師が後輩教師に自分の意見や指導方法を押し付けるようなことがあってはいけません。お互いに切磋琢磨できる雰囲気を築きたい。理想的な学校の姿とは、高い技量と個性溢れる先生がたくさんいて、かつ意思統一が取れているために指導方針も一致している状態でしょうね。 |
個々の教師の力を高める工夫が求められる |
――ではビジョンを明確にし、組織力や指導力の向上を図る過程で、留意すべき点は、どこにあるのでしょうか。
飯尾 私が進路課長を務めていた頃は、社会全体の受験熱が高く、実績を残さなければ評価されないというプレッシャーが高校にはありました。逆に言うと、進学実績の向上という目標は設定しやすく分かりやすいため、一つの指標で組織を引っ張ることができました。
しかし今は、進学実績という指標だけでは、教師も一つにまとまらないし、地域からの評価も得にくくなっています。そこで「創造性豊かな人材の育成」などのSI(スクール・アイデンティティ)を掲げるわけですが、進学実績に比べて具体的な目標ではない分、なかなか組織に浸透しない。そこで今までにない、様々な工夫が不可欠になってきていると思います。
中条 同感ですね。今は入試が広き門になり、選り好みしなければ国公立大でさえ入学するのが難しくありませんからね。進学実績だけで組織を引っ張っていける時代は終わったのかも知れません。
そういう意味でも、先に述べた外部評価と自己評価は重要になってきます。特に、学校現場には評価をきっちり根付かせることが大切です。PDCAを踏まえたビジョンが設定できないと、掛け声倒れになってしまい、前例主義に陥りがちです。
平野 私は、組織の一体化が指導の画一化につながるものであってはいけないと思っています。多様な指導を認めるコンセンサスも必要なのです。生活指導や進路指導の場面、もちろん教科指導の場面でも組織としての活動は重要なのですが、高校の先生に求められるベースは、何と言っても自分が担当している教科に対する高い専門能力です。生徒も、その教科の面白さ、奥深さを説得力ある言葉で語ることができる先生に魅力を感じるものです。ですから組織に頼るばかりではなく、個々の先生が自らの指導力を高めていく努力を怠ってはならないと思います。
飯尾 生徒は「この先生は力がある」と認めたら、その先生の指導を受け入れるようになりますからね。そのような個々の生徒と先生との信頼関係の積み重ねが、組織力につながるのではないでしょうか。そういう意味でも、教師の日々の研鑽は重要です。
教科指導で例えるならば、全国の大学入試問題を解いた上で「この入試問題は解かなくてもいいよ」と言えるくらいの指導力は身に付けておきたいですね。そういう研鑽が日々の授業の中にも生かされていくでしょうし、何よりも教師自身の自信になるでしょう。
中条 管理職の役割として、先生方が自己を研鑽できる場、刺激を受ける場をつくっていくことは重要です。私の担当は数学なのですが、若い頃、研修のため高校現場を離れて水産庁に度々足を運んだことがありました。数理統計学を使って、富山湾の真鯛の棲息数をどうしたら調べられるかということに没頭したことがあったんですよ。数学という学問を社会の中でどのように生かせばいいのか学ぶことができました。そういった経験は、生徒に数学の魅力、学問への取り組み方を語るとき、自らの発信力の強化となって役立っています。もちろん、生徒からの信頼感にもつながったと思っています。 |
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