ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
指導力向上を図る研修・育成の在り方を探る
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職人芸に頼る指導から組織力による指導へ教師の指導力向上を図る
 90年前後から同校では、指導体制の変更に着手する。まず、第1職員室を改修してスペースを広げ、1学年から3学年まですべての教師が一つの職員室に詰めることにした。それまで3年生への進路指導や教科指導は、第2職員室という”密室“で行われていたため、他の先生との情報の共有やノウハウの継承が図りにくかった。それを全教師同一フロアとすることで、風通しのよいものに変えたのだ。
 続いて学年団の構成も、固定化されていた3学年団を順次解体し、一つの学年団が年度を追うごとに1年生、2年生、3年生へと持ち上がるスタイルへと変化させた。これにより、大学を出て間もない若手教師が、3年生の担任をする例も見られるようになった。
 「この時期、本校の多くの先生方が、進路指導を一部のベテランに委ねるというやり方に限界を感じていたのだと思います。そこで学年団を持ち上がり式にすることで職員配置を均等にし、すべての先生が一体となって進路指導に取り組む体制に変更していきました。”職人芸“による進路指導から”組織力“を生かした進路指導への転換というわけですね。職人芸に頼っている限り、教師の力量によって成果に格差が生じ、全体の効果にはつながりません。しかし組織力を重視すれば情報やノウハウが共有化され、指導レベルの平準化が可能になります。また、若手の先生は組織の中で指導ノウハウを身に付け、レベルアップを図ることもできるのです」
 組織力を生かした進路指導の一例としては、生徒の志望大に応じた指導方針を検討していく一連の検討会が挙げられる。同校の検討会は図1のように、担任指導から面談に至るまで、数回に渡って様々な立場の教師がかかわっている。
図1
やや細かくなるが、その内容を説明すると次のようになる。
 まず「グループ別検討会」には、3年生の正副担任、1、2年生の進路指導部員、1、2年生の学年主任が参加する。同校では生徒が受けた校内実力テストや県下一斉模試・実力テスト(いずれも記述式)の結果と過去のデータを照らし合わせてコンピュータにかけ、独自の志望大合否判定(A~Eまでの5段階)を作成している。だが記述式は苦手だがマーク式は得意であるなど生徒の学力の特性は個々に異なるため、必ずしもコンピュータが弾いた結果が適切とは限らない。そこで「グループ別検討会」では、生徒の志望学部系統別(文・教育、法・経済、理工、医・歯・薬・農)に教師が4つのグループをつくり、それぞれの生徒の学力を分析し、適切な志望大合否判定を出している。
 次の「志望校検討会」に参加するのは、3年生の正副担任と3年生の授業を受け持っている教科担当、そして新任教師。ここで行われるのは、教科学力の具体的な検討だ。例えば数学の偏差値が50の生徒がいたとして、志望大合格のためには偏差値を55まで上げなくてはいけないとする。そこで数学のどの分野が弱点で、どのような勉強が必要かといった分析を行っていくのだ。これにより担任は、教科担当の教師の話を聞きながら、受け持っている生徒の学力を具体的に把握できる。また、新任教師は会に出席することにより、教科学力分析の手法を身に付けられる。
 続いて行われる「クラス別検討会」では、3年生の担任と学年主任や進路主任などの経験豊富な教師が、クラス別にペアを組む。そして「グループ別検討会」や「志望校検討会」での分析結果を基に、生徒一人ひとりについて志望大変更の必要性などを検討するというものだ。検討結果は、三者面談における生徒と保護者へのアドバイスに反映される。
 これらの作業は、かつての長崎北高校では3年担任のベテラン教師による”職人芸“に委ねられていた。しかし、現在では担任、副担任、教科担当、進路指導部員など様々な立場の教師がそれぞれの専門的な視点から生徒を分析することにより、”組織力“を生かしたレベルの高い指導を実現しているのだ。この体制の中では、もし新任教師が3年生を担任することになったとしても、多くの教師に支えられながら一定水準の指導方針を打ち出せる。また様々な情報や意見が飛び交う会議の場に、若手の教師も責任者の一人として参加しなくてはならないため、教師自身のレベルアップも実現できる。
 南先生はこうした組織力による指導体制を、従来のピラミッド型組織に対して、グリッド型組織と呼んでいる(図2)。
図2
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 「ピラミッド型組織では組織が上下の関係になっており、最上位が校長、教頭でその次が主任クラス、次が一般教師です。上意下達のシステムになっているため指示の伝達には優れていますが、教師間の情報やノウハウの共有化には適していません。一方、グリッド型組織は目的によって分掌を越えて横断的に構成される組織で、常に複数の視点から生徒を指導できます。また、ノウハウはグリッド(組織)そのものに継承されるので、グリッドの格子点(教師)は置き換えが可能になります。現在のように教師の異動サイクルが短い時代は、このようなグリッド型組織の構築が不可欠であると思います。一時期低迷していた本校の合格率が回復したのは、この改革が功を奏した面が大きいと思いますね」
 
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