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「選択教科」で生徒の興味・関心を伸ばす
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指導事例
選択教科
山形県・村山市立楯岡中学校
発展的な力を伸ばす「補充・発展学習」
 山形県村山市の市立楯岡中学校では、02年度より学力向上フロンティアスクール(注※)として、「自分を知り、意欲を持って学び続ける生徒の育成」をテーマに「確かな学力」習得を目指した教育システムの研究を進めている。
※「確かな学力」向上を具体化するための文部科学省の一施策。児童・生徒一人ひとりの実態に応じたきめ細かな指導の一層の充実を図るため、実践研究を推進し、その成果を全国すべての学校に普及することを目指す。
 選択教科は、同校の研究の大きな柱の一つである。校内研究主任の今野栄治先生は、同校の選択教科の位置付けを、次のように述べる。
 「選択教科の目的は、必修教科の中で学んだ内容を『広げ・深め』るなど、発展的な学力の育成に主眼を置いています。同時に『選択する』という行為を通して『総合学習』が目指している、主体的に学ぶ姿勢の育成をも担っていますから、選択教科は必修教科と『総合学習』の接点にある教科だと言えると思います」
 同校の選択教科は「課題学習」と「補充・発展学習」に分けられる。いずれも全教科が対象。運営は学年単位で行われるため、各教科はクラス横断で行われる。年間の時数は、5教科・技能教科合わせて1年次30時間、2年次70時間、3年次155時間を充てている(図2)。
図2
 「課題学習」は、教科のねらいや魅力を生徒に伝えることを目的として、教師が設定した課題を生徒に選択させるもので、新課程施行前の「選択教科」と同様の位置付けにある。これに対し「補充・発展学習」は、学習指導要領の目標や内容を「広げ・深め」ることを目的として、生徒が伸ばしたいと思う力や学びたい内容に応じて、主体的に教科を選ぶもので、同校の選択教科の中心的な役割を担う。選択教科担当の笹原茂隆先生は「補充・発展学習」で扱う範囲について、次のように説明する。
 「新課程以降、多くの教科で指導内容が削除されましたが、その中には当然、中学校の段階で教えておきたい内容も多く含まれています。そうしたいわゆる『歯止め規定』の部分と新課程以降削除された部分を、本校では発展的な内容として捉えています。また『補充』についても、『後補充』ではなく、発展的な内容に進むために基礎を補強したいという生徒の要望に応じた形で実施しています。発展に進む前段階という意識を生徒に持たせることで、生徒の学習意欲も違ってきますね」


自己分析に基づき生徒自身がカリキュラムを作成
 同校の「補充・発展学習」の最大の特徴は、自己分析に基づいて生徒自身がカリキュラムを作成するところにある。生徒は全9教科の中から学びたい教科を選んだ上で、さらに各教科の内容についても自ら考え、カリキュラムを作成していく。したがって、でき上がったカリキュラムを見ると、同じ一時間内で取り組む学習内容・範囲は、生徒によって異なるのである(図3)。
図3
 「選択教科の目的の一つは、個人の特性を伸長させることです。実際、意欲、学習スタイル、資質などは生徒によって様々ですから、それぞれの興味や実力に合ったカリキュラムを作らせることで、一人ひとりに合った自由進度学習ができるのではないかと考えました」(笹原先生)
 カリキュラム作成を含めた「補充・発展学習」の流れ(図4)は、以下の通りである。
図4
 同校では、2年次では1年次の内容を、3年次では2年次の内容を選択教科の範囲として位置付けている(1年次は「課題学習」のみ)。そこでまず、生徒は新年度が始まる前に前年度の学習を振り返り、次年度で学びたい教科を書いて提出する。
 その際、重要になるのが生徒による自己分析である。教師が提示した教科ごとの規準を基に、生徒は前年度の学習内容の中から、もっと学習したい教科は何か、理解が足りなかったところはどこかを検討するのである。学力不足を補うためだけに行うのではなく、各自の興味や関心を引き出すのがねらいだ。それを受けて教師は、すべての生徒の希望を集計し各教科の希望人数を割り出し、教科ごとに割り当てる教師の人数や、指導方法などの大まかな方針を立てる。この時点で教師は、生徒ができるだけ第2、第3希望に回ることがないように配慮する。生徒の希望が特定の教科に偏るようであれば、チームティーチングを活用したり、あるいは教師の人数を増やしたり、コースを分けて生徒を分散させたりして、生徒の希望に添うよう対応していくのだ。
 教科単位の大まかな方針を立てた後は、いよいよ生徒は教科の内容にまで踏み込んだカリキュラム作成に入る。ここで生徒は各教科の内容や目標を絞るため、再び自己分析を行う。
 この段階での自己分析は、担当教師によって異なる。例えば、理科担当の今野先生のクラスでは、まず「イオン」「化学変化」「台風」など、思い浮かぶキーワードを生徒に出させ、個々の生徒の興味・関心を探る。次いで「イオン」なら「電気分解」、「台風」なら「下降気流」などのキーワードについてさらにイメージを膨らませる。イメージの関連に妥当性があるかどうか、今野先生自身が対話を通して生徒の理解度を確認していくのだ。
 なお、カリキュラム作成の途上、中間集計で要望の多かった内容については、教師側が「講座」を設定し特定の時間枠を設けて開設することもある。生徒は講座についても検討を加え、カリキュラムに加えるか加えないかを考えるのである。
 
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