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問い直される修学旅行の意義
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「データで考える子どもの世界」

学習機会としての意識が希薄な修学旅行
 修学旅行を「学習機会」として捉え直す――。「研修旅行」の原点に帰り、このような見直しをする学校が近年増えつつある。本誌でも02年度2月号で、課題研究色を前面に押し出した和歌山県立和歌山高校の事例を紹介したが、この例に限らず、企業見学や大学研究を取り入れた修学旅行の見直しが、各地で議論され始めている。実際、図1に示したように、決まったコースを回る以外に、「自主見学」や「体験学習」を取り入れる学校はかなりの数に上る。普段は得られない経験の中で、何かをつかんでほしい。そんな教師の思いが、徐々に修学旅行の在り方を変えようとしている。
図1
 しかし、このような変化を内包しつつも、修学旅行の目的を学習に特化させた事例は、まだ少ないのが現状である。図2に示したのは、修学旅行の目的に対する全国の高校の見解をまとめたものだが、修学旅行を「見学・学習」目的の行事として位置付けている学校は10%程度にすぎない。同調査の10年前の結果によれば30%あまりの学校が「見学・学習」目的で修学旅行を実施していた。対して、多数を占めるのは「集団生活訓練」や「人間関係づくり」であり、生活指導の一環として修学旅行を位置付けている学校が多いことが分かる。
図2
 それでは、修学旅行を学習目的の取り組みとして見直していく際の課題やポイントは何であろうか。


修学旅行に対する生徒の意識面での課題
 修学旅行の目的は各学校の特性に応じて決定されるべきものであり、目標設定の多様性はあってしかるべきである。しかし、いざ学習色を強めた修学旅行を実施しようとした場合に課題が多いのも事実であろう。特に、修学旅行に対する生徒の意識をいかに変えていくかというテーマは、多くの学校に共通した重要な課題と言える。
 図3に示したように、生徒の意識においては「高校生活の思い出をつくる」のが修学旅行の主目的であり、「学習の一形態」としてそれを捉える意識は相対的に低いのである。このような状況で、急に学習色の強い修学旅行を実施しようとしても、なかなか生徒の理解は得られないだろう。たとえ体験学習の機会を増やしたとしても、それをすぐに「学習機会」として位置付けられる生徒は少数にとどまるのではないだろうか。
図3


事前・事後学習とリンクさせ学習効果を生む
 修学旅行を見直す上で、一つのキーワードとなるのが、旅行の「事前・事後学習」の充実である。修学旅行を単独の活動として位置付ける限り、大きな学習効果は望めないが、修学旅行を他の学習活動とリンクさせて実施することができれば、「事前学習を検証する場」あるいは「事後学習に向けた研修の場」として学習効果を期待することができる。実際、先に紹介した和歌山高校では、修学旅行を「総合的な学習の時間」の中に組み込んで実施している。もちろん、こうしたアプローチが、生徒・保護者の理解を得る上でも大きな力を発揮したであろうことは想像に難くない。
 また、次ページに紹介する帝京高校の事例のように、修学旅行を軸に「総合学習」の内容が再度整理されるといった効果が期待できることも事実である。現在、多くの学校が、進路学習や課題研究、小論文指導を軸に「総合学習」を展開しているが、「活動の意義や方向性が生徒に十分理解されていない」あるいは「教師の間で、活動相互の位置付けについて、コンセンサスが得られていない」といった悩みを抱えている学校も少なくない。修学旅行を軸とした年間の活動計画の再編は、そうした問題を解決する一つの手法としても捉えられるだろう。
 「総合学習」の検討期には、修学旅行を「総合学習」に位置付けようと考えてはいたものの、なかなか実行に踏み切れない学校も多かった。現在も試行錯誤を続ける帝京高校の取り組みを次ページから紹介する。
 
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