ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
キャリア教育の視点と方法を探る
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社会貢献・自己実現・労苦を体験させることが必要
高田 「大学生の悩みと不安」(図3)を見ると、大学生の悩みと不安のトップは「将来の進路」です。実は某難関国立大のデータなのですが、8割近い学生が進路に不安を抱えていることが分かります。難関大の学生でも、どう生きるべきかという価値基準は、必ずしもはっきりしているわけではないということですね。
図3
 「○○がしてみたい」というのは自分の価値基準と照らし合わせて初めて納得がいくものだと思いますが、価値基準を育てるためにはどうすればいいのでしょうか。
吉本 宮原先生がおっしゃられていたような「目標は見えないが学びに興味のある生徒」に対しては、将来決定を大学まで持ち越すことに問題はないと思います。ただ、近年問題になっているのは、大学院に進学したけれど何を研究したらいいのか分からないため、大学院で進路を変更する学生が増えていることです。これは、大学院に至るまでの間に、別の世界を見せなかったことに原因があるのだと思いますね。発達段階のどこかの場面で、子どもを意図的に迷わせる、揺さぶりを掛ける必要があるのではないでしょうか。
 必要なのは、職業の様々な側面を実感させる経験を持たせることだと思います。仕事をするということは、自己実現という奇麗な世界だけではなく、そこには当然辛いことがつきまといます。しかし、それでも自分が力を発揮したり、人に認められたりして、社会の一部になっているという実感を得るなどの社会とのつながりを感じることが、職業観・勤労観の醸成には欠かせません。「社会貢献」「自己実現」「生計のための労苦」の三要素を含めた職業観を、肌で感じるような経験をするのがキャリア教育の共通要素になると思います。
高田 喜びや辛さを含めて、立体的に職業観を育成する必要があるというご指摘ですが、そのために有効な手立てはあるのでしょうか。
吉本 「メンター」という役割がありますよね。家族とは違う立場で、仕事や人生について効果的なアドバイスをしてくれる相談者のことです。現代の多くの子どもたちは友達や先生、両親くらいしかコミュニケーションを取る相手がいません。高校生にとって必要なのは、「お兄さん」「お姉さん」など少し上の先輩の存在なのだと思います。ちょっと背伸びをしながらコミュニケーションすることで相手の世界を知り、自分の進路の可能性にも思い至るようになると思いますね。そういう意味では、出会いを仕組むためのインターンシップは効果的だと思います。
高松 各学校が取り組んでいるインターンシップも、一番重視しているのは日常の学習活動につながるモチベーションの育成ということです。「自分が進もうとしている方向はこれでいいのか」「自分の進路先の環境は充実しているのか」といったことや、その目標を達成するまでのプロセスを客観的に考えることのできる能力を身に付けてもらいたいと願って取り組んでいます。
高田 大学のオープンスクールの説明会で、大学生が説明するのを聴く機会もありますよね。
吉本 そういう機会も大切だと思います。九州大でも、私ども人間環境学研究院のスタッフを中心に、高大連携の事業として、大学の雰囲気を知ってもらうために通常の講義を高校生に公開する事業を実施しています。そこで高校生が一番驚くのは、2歳くらいしか年齢の違わない「お兄さん」や「お姉さん」が、演習で難しいテーマについて議論している場面なんですね。自分たちも先輩のようになれる、あるいはなりたいという気持ちが高校生に大きな刺激を与えるのです。
 「お兄さん」や「お姉さん」あるいはインターンシップの受け入れ先の人たちは、学校の先生が知らない現場の雰囲気や実際の体験を持っている分、生徒に実社会をイメージさせやすい。その意味では、学校の情報提供だけでは難しい面があるので、先生は積極的に「お兄さん」「お姉さん」との出会いを準備して、生徒に外の世界を見せてあげることが必要なのではないでしょうか。
 
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