ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
キャリア教育の視点と方法を探る
田中秀利
広島大学生就職センター教授、高等教育研究開発センター研究員
田中秀利
Tanaka Hidetoshi
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大学現場の事例(1) 広島大学
教養的教育科目により
学生のキャリア意識を啓発
 座談会では高校現場におけるキャリア教育に必要な視点や考え方を見てきたが、具体的な講義の場面において、大学ではどのように教育を行っているのだろうか。キャリア形成支援の実践例として、広島大の総合科目「職業選択と自己実現」を紹介したい(図5)。
図5
 同講座は、自分自身を見つめ直し、主体的にキャリアビジョンを描くことができる学生の育成を目的としている。「社会や企業が求めているのは、早期職業意識の確立と充実した勉学である」という認識を前提に、将来を考え学生生活を充実できるよう、2年次以降の学生を対象としている。
 同講座は前・後期それぞれ2単位を認定。受講者はここ数年300~350名(就職希望者の約5分の1)で推移している。講座を担当するのは33年間民間企業に勤務した田中秀利教授だ。人事・教育全般と海外勤務を含む海外事業に携わった経験を、講座の構成や運営に生かしている。
 「すべての学生は、『自分の人生を大切にしたい、自分で描いた脚本で演じたい』と思っています。しかし、どうすればいいのか分からない学生が多いのが現状で、『環境が不透明な中では、将来は描けない』という学生も少なくありません。しかし過去の延長として目先のことだけ考える人と、5年先、10年先のありたい姿を考えて生きる人とは、歴然と差が付きます。大学は学生にキャリアを描くために必要な考え方や手法を示し、自立を支援する責務があります」


キャリアビジョンを描く3つのポイント
 学生が自らキャリアビジョンを描けるよう、同講座では以下の点にポイントを絞って指導を展開している。
 第一に大切なのは、将来を見据えられる力である。多様化する価値観の中で、譲れない自分の生き方を見つけるには、内なる声との対話力が重要な意味を持つ。ビジョンがあってこそ、働くことに生きがいを感じ、自己実現をしたいという「職業観」が育まれる。
 第二にキャリア思考を身に付けることである。自分はどこに行きたいのか(ビジョン)→どこにいるのか(現状理解)→そのためにすべきことは何か(行動)。この思考が、社会や企業が求める「課題解決思考」であることに気付くことが重要だ。
 第三は、ビジョンを実現するための行動力だ。その前提になるのは、専門性や語学、PCスキルなどの「腕」、何をすべきかを認識し行動する「頭」、人を引き込むコミュニケーション能力のベースになる「心」を高めることである。「腕」「頭」「心」の能力を高め、ビジョンに向かって果敢に行動する姿勢を養うことこそ大切である。
 
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