ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
キャリア教育の視点と方法を探る
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自問自答と他者比較で表現力やストレス耐性を付ける
 では、以上の力の必要性を実感し、高めるために、同講座はどのように取り組みがなされているのだろうか。
 講座の進行は基本的に、情報提供→演習→記述の3段階を踏む。「情報提供」では、社会や企業の現状や求められる人材像、自己理解を深めるために必要な視点などを提示し、学生の気付きを促す。これを受けて学生は、個人あるいはグループに分かれての「演習」を行い、発表やレポート提出(「記述」)を行う(図6)。
図6
学生は「情報提供」を聞きっ放しにするのではなく、1回の講座で必ず何らかの自己表現をし、自らの問題として進路・職業選択を考えると共に、論理的思考力や自己表現力を高めるのである。
 例えば、企業採用における面接の位置付けや、面接を受けるに当たっての心構えを学ぶ「自己表現(2)」では、講義でコミュニケーション能力や課題解決力、意欲など企業が面接を通して知りたいこと、「何を、どのように話すのか」といった面接の基本など、ポイントをビデオ教材も活用しながら解説し、次に5対5のグループ面接の演習を実施。「ベンチャー企業が1名を採用する」という設定で、面接官と受験者を交互に体験した後、講座の最後に「面接演習を通して感じたこと」「面接に臨んで留意したいこと」を記述する。面接を受けたことで「自分の言いたいことが上手く伝えられない」と表現することの難しさを実感する学生がいる一方、面接官役を通して「質問の意図と違う回答をする人がいる」と、他者を反面教師として面接時に留意すべきポイントに気付く学生もいる。
 「情報提供、演習、記述を通して重要と考えるのは、自問自答と他者比較です。講座で学んだことや感じたことを表現するために自問自答することで、そのテーマが自分にとってどういう意味があるのかに気付きます。また、他者のレポートを読んだり発表を聞いたりすることで、自分と他者とを相対化し、自分の位置や強み・弱みを把握できるのです。自分のレポートについて批評を受ければフラストレーションが溜まるかも知れませんが、精神的なストレスに対する耐性を付けることも講座のねらいの一つなんです」(田中教授)


教員・職員の意識を高め大学全体でキャリア支援
 同大では次年度以降、さらにキャリア教育に関するシステムを強化する予定だ。「職業選択と自己実現」に加えて「インターンシップの実践と職業観」などの科目設置を検討すると共に、従来から設置されている「ベンチャービジネス論」や「現代ボランティア論」などの教養的教育科目を、キャリアビジョンと結び付けて履修できるように、講座選択の支援も強化していくという。
 田中教授は、「キャリア教育の推進には『教育システムの整備』と『教員・職員の意識や能力の向上』が必要になります」と指摘する。
 「良いシステムに血を通わせるのは、日頃学生に接している教員や職員です。教員・職員に対してもキャリア教育に必要な視点や方法を学習してもらうことで意識を高め、やがて大学全体でキャリア教育に対する前向きな『風土』が醸成されます。大学の実力が問われる現在、キャリア意識の啓発は、大学が保障すべき『教育の質』の重要な柱であるという認識が重要だと考えています」
 
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